雑学界の権威・平林純の考える科学

 次の問題に答えてみて下さい(持ち時間10秒)。

 全10問の2択問題をデタラメに答えた時、正解数5問以上になる確率は何パーセントでしょう?

この問題、私のリサーチでは95パーセント以上が「全10問で5問以上正解なら…当然50パーセントじゃない?」と答えます。もちろん、その後、「けれど、そんな出題をワザワザするということは、そうじゃないってこと?」と訝(いぶか)しげな顔をする人も多いのですが、少なくとも最初は「50パーセント」という答が(ほぼ確実に)返ってきます。

 しかし、この問題の答は「約62パーセント」です。「全10問の2択問題をデタラメに答えた時、正解数5問以上になる確率は約62パーセント」で、五割より(かなり)高い確率で”正解数が5問以上になる”のです。…といっても、「全10問の2択問題をデタラメに答えた時、間違った答が5問以上になる確率も同じく約62パーセント」です。…そろそろ「この問題のトリック・タネ」がおわかりになったかと思います。全10問の2択問題がある時、次の3通りの状況があります。

  • A. 正解の方が多い
  • B. 正解と誤答の数が同じ
  • C. 誤答の方が多い
そして、「A. 正解の方が多い」と「C. 誤答の方が多い」は、対称性から当然「同じ数だけある」わけです。そして、「全10問で5問以上正解」というのは、「A. 正解の方が多い」に加えて「正解数(=5)と誤答数(=5)が同じ」というBの状態も含みますから、当然のごとく、「C. 誤答の方が多い」だけより「A. 正解の方が多い」と「B. 正解と誤答の数が同じ」の和の方が多くなり、50%よりも確率が高いのが”当然”です。

 実際、その確率を計算してみると(右図)、638 / 1024 ≒ 62パーセントという確率になります。 けれど、ほぼすべての人の「感覚」「印象」では、なぜか「全10問の2択問題をデタラメに答えた時、正解数5問以上になる確率は50パーセントという答」の方を自然だと感じるのです。これは、一体どうしてなのでしょうか。

 どうやら、私たちの頭の中では、「全10問のうちの5問正解という状態」は、「真っぷたつにしたときの上半分」というように誤変換されてしまうようです。「10という数字は2で割れて、2で割ると5になる」という印象が強いせいなのか、あるいは、10進数で0~9までを「四捨五入」でふたつに分けることに慣れたせいなのか…その理由はよくわかりませんが、「全10問の2択問題、デタラメな答で正解数5問以上の確率」を尋ねると、ほぼ100パーセントの人が「50パーセント!」と答えるのです。

 この問題で何より一番面白いことは、「私たちの考え方・感じ方が、この問題に(なぜか)間違った答を返したがる」ということ、そして「その理由は一体何なのだろう?」を考えてみても、その「正解」がなかなか見つからないことかもしれません。・・・あなたなら、一体どんな「理由・原因」だと考えますか? 私たちの頭の中に仕掛けられた「間違ったロジック回路」の仕組みが知りたい…とは思いませんか?

 ジェット機が飛行場に着陸する直前、ウィーンという音をさせながら、翼の前後部分を伸ばし・広げていくきます。 その前後に伸ばされていく翼を眺め、「何だか隙間が大きく空いてるけど、本当に大丈夫かこの機体…。もしかして着陸失敗したりしないかなぁ…?」と感じて思わず不安になったことがある人も多いのではないでしょうか。 …しかし、実は飛行機が着陸時に伸ばす延長翼は隙間が空いている方が良いのです。

 飛行機は翼の上下の圧力差から空に浮かび上がろうとする・上に向かう揚力を得ています。 この揚力は、飛行機の速度が遅くなると小さくなるので、速度を遅くする着陸時には、機体の後ろを下げ気味にして・翼が風を大きく受けるような体勢をとります。すると、 飛行機の速度が遅くても、高い揚力を得ることができます。 しかし、その一方で「失速」が起きやすくなります。 失速というのは、翼の上面に沿って空気が流れなくなってしまうことで、飛行機を持ち上げようとする翼の揚力が失われる現象です。もちろん、失速したら、飛行機は空中に浮かんでいることができず、下に降下(運が悪ければ墜落)してしまいます。

 私たちが一見すると壊れているんじゃないか?と思ってしまいがちな、「隙間が大きく空いているように見える翼」は、この恐ろしい失速を防ぐために「隙間を空けている」のです。どういう仕組みかというと、翼に空いた隙間の間を通過した空気は、隙間を通過した後も翼上面に沿って流れるという性質(コアンダ効果)があります。このコアンダ効果を使うことで、つまり、翼に空いた隙間を通った空気が翼上面に沿い流れるようにすることで、「翼に沿って空気が流れなくなる」ことを防ぐ=飛行機の失速を防ぐわけです。

 たとえば、下に貼り付けた翼周りで流れる空気を可視化した映像を見れば、翼の角度が立ってくると空気流が(翼から)剥離してしまうのに対して、翼の前後に隙間が空いていると、その隙間を通り抜けた空気が翼上面に沿って流れ、失速を防ぐことができていることがわかります。

 飛行機が着陸時に伸ばす延長翼は、隙間が(心理的に)大きく見えて・心配になってしまったりしますが、意外なことに「隙間がある」方が実は良いのです。…次の飛行機の着陸に「隙間のある翼」を見たら、今度は心配でなく「安心」することができるかもしれないですね!

 「短いスカートが身体に悪影響を与えることが科学的に証明されました。」というポスターを、学校の構内で見かけました。 ポスターの内容は、「(膝位置より15cm短い)短いスカートは体温低下を生じさせ、体温低下は免疫低下や血圧上昇を生じさせる」というものです。このポスター、「短」「悪」という2文字が強調されていて、短いスカートを履いた瞬間、悪の組織から恐怖の毒電波が飛んでくる…ような感覚に陥ります(特に右下のポスターは、悪の組織に誘われ・地球征服の手先にされてしまいそうな雰囲気です)。

 スカート丈が短ければ、身体の露出面積は増えますから(「スカート丈の長短が衣服気候へ及ぼす影響について 聖徳栄養短期大学紀要 3, 27-31, 1971-03-20」によれば、身体の被覆率は、(半袖状態の)膝丈スカートで63%、膝上10cmスカートで57%、膝上20cmで52%となっています)、気温が低かったり・風を受ける状態では、短いスカートを履くと、身体から多少なりとも熱が奪われてしまうことでしょう。だから、寒い日には短いスカートは身体に優しくない…というのは、とても自然な話です。

 しかし、寒い日には短いスカートは(身体が冷えて)身体に悪いということだとすると、「寒くない暑い日であれば、短いスカート丈の方が身体にいい」ということにもなりそうです。
 たとえば、「(以前作成した)世界各国で調査された「気温と(その時期の衣服による)肌の被覆率」によると、気温が25℃なら肌被覆率は60%くらい、30℃なら50%ほどです。つまり、気温が暑くなると、衣服で身体を覆わず・露出するのが普通になります。
 このデータをスカートだけに適用してみると、気温25℃ならスカート丈は膝上5cmくらい、気温30℃ならスカート丈は膝上20cm強くらいでも自然かも…ということになってもおかしくありません。

 だから、コンクリートジャングルな日本の大都市で、夏の暑さが厳しくなっていく未来には、「長いスカートは身体に悪影響を与えることが科学的に証明されました」というポスターが学校港内に張られていたりするかもしれません。

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 …それにしても、私が中学の時代には、「長いスカート」が「不良・スケバン」の象徴・悪の象徴とされていました。それとは逆に、今の時代は「短いスカート」が悪とされている…というのは、何だか不思議な心地です。