雑学界の権威・平林純の考える科学

 尿意をガマンした後に、トイレに行ってようやく立ちションした瞬間、体がブルブルッと震える経験は、誰しもあると思います。「立ちションなんてしたことない!」という女性の方はそんな感覚は未体験かもしれません。しかし、多くの男性は、そんな感覚を馴染み深いことでしょう。

 この「立ちション後に体がブルッと震える現象」について、その原因として「おっしことして熱エネルギーを放出する」ことが挙げられたりします。おしっこをすると周りの気温に比べて温度が高い尿を体外に放出することになるので、失った分の熱エネルギーを補充しなければならず、体温が下がってしまう、という説明です。…しかし、少し考えてみると、この説明はかなり「変で筋が通らない」ことがわかります。まず、膀胱から尿を排出したとしても、(そのこと自体からは)熱をどこかに補給する必要はありません。

 人間の体の中は約37度に保たれています。この温度は中枢温とか深部温と呼ばれ、膀胱中の尿の温度もその温度になっています。もちろん、尿自体が自己発熱するわけはないので、膀胱周りが約37度になっていて(そこから熱が伝わることで)尿も約37度になっているというわけです。膀胱の周りも、その中にある尿も、ぜ〜んぶ等しく約37度の世界です。

 それでは、おしっこをして膀胱の中から尿が排出されたとしたら、「ぜ〜んぶ等しく約37度の世界」には一体何が起こるでしょうか?膀胱の中から(一回あたり400ml程度の)約37度の尿が姿を消し、約37度の膀胱は排出された尿の体積分だけ縮むことになります。…けれど、そこに残っているのは、やはり等しく約37度の膀胱だけです。その辺りにある温度が全て同じなら、熱は(高い方から低い方へと流れていく熱は)どこにも移動していきません。つまり、膀胱から尿が排出されたとしても、膀胱や体内から熱を何処かに供給しなければいけないことにはならないのです。だから、立ちションをした後に体がブルブルッと震えるのは「おっしことして熱エネルギーを放出する」からだという説明は、全く筋が通っていないわけです。

 それでは本当の理由は一体何かというと…、実はその理由は未だ明らかにされていないのです。おしっこをガマンしている時には交感神経の作用により、膀胱を包む筋肉は緩み、それとは逆に尿道の筋肉は締まっています。しかし、おしっこを始める直前から、副交感神経が卓越し、尿道の筋肉が緩み、膀胱を包む筋肉が締まるのです。立ちション後に体がブルッと震える現象は、こうした自律神経の制御に関連しているのではないかと考えられていますが、その発生過程は現代の科学でも未だ明らかにされてはいないのです。

 この排尿後に体がブルッと震える現象は”Post-micturition convulsion syndrome” とか “pee shivers” と呼ばれます。男性は83パーセント近くが立ちション時にブルブルッときた経験があるけれど、座っておしっこをするときには53パーセントの男性しかブルブルッときた経験が無いというアンケート結果や、女性はおしっこブルブルッ経験がほぼ無い(かなりガマンした場合に体験したことがある)といったアンケート結果もあります。立ちション後に体がブルッと震える本当の原因は、こうした状況・性差(単に立ちションの有無かもしれませんが)下での違いを説明することができることのはずです。

 交感神経から副交感神経へと卓越する制御が切り替わると何が起こるのでしょう?副交感神経が卓越すると、毛細血管に流れる血液量が大幅に増え、体表面と体内深部の温度循環が激しくなったりもしますから、熱収支的にも何かが起こっても不思議ではなありません。あるいは、そんなこと以前に、そういった自律神経の制御切り替わり過程では、体が意図しない感覚・動きをしても、全く不思議ではないようにも思われます。

 あなたは「立ちション後に体がブルッと震える」経験があるでしょうか?その経験をするのは立ちション時?それとも、座りション時?…そして、そんな現象を起こす発生過程はどんなものだと思いますか?*

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*私が実験してみた結果では、立ちション時に下腹部の体表面温度は(非接触温度計で計測してみても)ほぼ変わらず、また、実際に排尿される直前からある種の不思議な感覚を受け、排尿を終え通常動作に復帰する瞬間に、ブルブルッと感じるようでした。

 「輪ゴムでバンジージャンプ!」をやってみたくなったことがある人は、意外に多いものです。 机を前に、ツマラナイ作業を続けていたりすると、誰しも「うぉー、こんなことやってられるかぁ−!」と叫びたくなり、そして、机の上に転がる輪ゴムを繋げて「ひとつバンジージャンプでもしてみようか!」と思うわけです。たとえば、輪ゴムで32メートルのバンジージャンプをされたこの動画の方たちのように、高いところから輪ゴムを命綱にエイヤッと飛び降りてみたくなるものです。けれど、それで大けがでもしたら・あるいは天に召されてしまったりしたら、それはとても困ります。…というわけで、今回は「輪ゴムでバンジージャンプ!」をやってみたい人への実践的なアドバイス(バンジーセット作成編)です。

 バンジージャンプをするためには、

  1.   1. 何メートル飛ぶか
  2.   2. 輪ゴムを何本繋げるか
  3.   3.(さすがに輪ゴムを繋げたものがひとつだけあっても体重を支えきれないので)輪ゴムを繋げたものを何本用意するか


を決めなければなりません。実は、これらの選択肢は「一番最初の選択」である、何メートル飛ぶかということを決めると(そして、輪ゴムの本数を可能な限り少ないしたい…という経済原理にしたがうと)、自動的に決まります。たとえば、下に示した図は、体重60キログラムの人の場合に、何メートルのバンジーをしたければ、何本の輪ゴムを繋ぎ・それをさらに何束たばねれば良いかがわかるようにしたものです。このグラフでは、青く塗りつぶした部分が「バンジージャンプが成功する条件」で、赤く塗りつぶした部分が(バンジーが)失敗する条件です。たとえば、体重60キログラムの人が20メートルバンジーをするなら、18号の輪ゴムを100本繋ぎ、さらにそれを1000本くらい束にして、つまり10万本のバラならぬ10万本の輪ゴムを使って、バンジージャンプ用具を作らなければならない…というわけです。

 こうした計算をしてみると、冒頭でリンクした輪ゴムでバンジージャンプをされたこの動画の方たちは、使った輪ゴムがたった3000本では、それは絶対失敗するはずだ…ということがわかるわけです。30メートル飛び降りるためには、最低限150本の輪ゴムを直列に繋いだ上で、それを1000本束ねる=15万本の輪ゴムを使わないとダメ、という結果です。

 ちなみに、何メートルのバンジージャンプをするためには、輪ゴムをどんな風に繋ぎ・束ねれば良いかという問題は、飛び出す場所の位置エネルギーと輪ゴムの弾性定数をもとにした弾性エネルギーの保存則と、輪ゴムは元の大きさの4倍以下にしか伸ばすことはできないという制約不等式、さらに輪ゴムを可能な限り減らしたいという経済原理を使うことで解くことができます。輪ゴムの繋ぎ方・束ね方で各輪ゴムに分配されるエネルギーが違うことを考慮してエネルギー保存則を解き、輪ゴムが伸びることができる上限や、なるべく輪ゴムの本数を少なくしたいという経済原理により、何メートル飛びたいかという条件が決まると自動的に値が決まるのです。

 さて、一番重要な「何メートル飛ぶか」ですが、それは「あなたの度胸と向こう見ずさ」次第です。どきょう・向こう見ずさに関しては、計算無しで(圧倒的に輪ゴム本数足りない状態で)30メートルのバンジーを行った輪ゴムでバンジージャンプをされたこの動画の方たちに教えを請うのが良さそうです。

 濡れた髪を素早く乾燥したい時の定番テクニックは、濡れた髪からタオルで水分をよく拭き取った後にドライヤーをあてる、吸水性の高い繊維を頭に巻きつつドライヤーをあてる、髪の根元から乾かすことで一旦乾かした箇所が再度濡れてしまうことがないようにする、といったところでしょうか。しかし、科学的計算によれば、髪を素早く乾かすことができる意外に効果的なテクニックが存在してるのです。…それは、指を開いた手を髪に差し込み、掌(てのひら)を素早く(ドライヤーの風を横切るように)左右に振りつつドライヤーの風をあてる、というものです。

 日本工業規格JIS9613(ヘヤドライヤ)によれば、ドライヤーは、吐出口から 30mm 離れた位置において70℃以上140℃以下の熱風が秒速5メートル以上の速度で吹き出すように作られています。といっても、髪にドライヤーの吹き出し口をあまり近づけると、髪の毛が100℃近くなり熱で変質してしまうので、現実的には15センチメートルくらい離れた箇所からドライヤーの風をあてるということになるでしょう(参考&右図:花王ヘアケアサイト)。すると、たとえば1200ワット程度のドライヤーでは、髪の毛の温度を80℃程度に抑えつつ乾燥させることができるようになります。

 15センチメートル離れたところからドライヤーで髪の毛に風をあてるとすると、秒速15メートルほどで熱風を吹き出すドライヤーの場合で、吹き出し口から15センチメートルくらい離れたところでは、熱風の風速はおおよそ秒速6メートル程度になります(参考&右図:ヘアドライヤーではないですが”HP162 ハンディタイプ包装機の(熱)風の吹き出し方を調べてみました”)。つまり、ドライヤーの吹き出し口での風速・温度が、15センチメートル離れたところでは大体半分になるという具合です。

 さて、指を開いた手を髪に差し込み、掌(てのひら)を素早く(ドライヤーの風を横切るように)左右に振るとどういうことが起きるでしょうか?掌を左右に高速でシェイクしてみると、大体20センチメートル程度の幅を秒6回程度で振ることができます。つまり往復で40センチメートルの距離を秒6回ということで、ドライヤーの風に対して(横切るように)秒速240センチメートルもの動きを髪の毛に与えることができます。この動きをドライヤーの風に加えてやると、秒速6メートルのドライヤーの風が秒速6.5メートル相当に変化します(風の向きに対して鉛直に振っているため、残念ながら6+2.5=8.5とはなりません)。

 そして、髪が約15グラムの水分を含んでいるものとして、温度80℃の熱風が①秒速6メートルで吹き付ける場合と②秒速6.5メートルで吹き付ける場合の乾燥時間をシミュレーションしてやると、前者が1分40秒(100秒)、後者は1分36.5秒(96.5秒)で髪の毛が乾くという結果になります。つまり、3.5秒ほど速く髪の毛を乾燥させることができる、というわけです。パーセンテージに直すと、乾燥時間を約4パーセント時間を短くすることができるのです。ということは、髪の毛が長くてドライヤーを5分(300秒)使っている人であれば、一回あたり12秒短くすることができる、…さらに1年365日あたりにすると、12×365=4380秒=73分=1時間13分も時間を有意義に使うことができる、というわけです。

 指を高速にプルプルと震わせるたけで、濡れた髪を素早く乾かすことができる!?(計算上はそうなるはず)という㊙テクニック、試してみるのはいかがでしょうか?