雑学界の権威・平林純の考える科学

 12月10日の夜の皆既月食(月蝕)をたくさんの人たちが眺めることができたのは、月が遙か遠く離れた場所にあるからです。 もしも、月がもっとずっと近い場所に浮かんでいたとしたら、日本中の人たちが月食を同時に眺めることはできません。 たとえば、高さ634mの東京スカイツリーは東京近くの広い場所から眺めることができます。 しかし、東京から数百km離れた大阪からともなると…東京スカイツリーは見えません。 月が地球から約38万kmほども遠い場所にいるから、日本列島のさまざまな場所にいる私たちが、同じ月を眺めることができるのです。

 今週からクリスマスくらいまでの間、冬の澄んだ夜空の向こうから、こぐま座流星群が地球へと降り注ぎます。 しかし、月食と違って、「同じ流れ星」をみんなで眺めることはできません。 なぜ、同じ月食をみんなで眺めることができるのに、同じ流れ星をみんなで見ることができないのでしょうか?

 なぜかと言うと、流れ星がいるのは月よりずっと低い場所だからです。 大気圏に突入した流れ星は地表100kmほどの高さで熱く燃えて、そして明るく輝きます。 100kmというと…東京駅から東海道線に乗って、横浜・小田原・熱海を抜けて、箱根を過ぎた辺りです。 そんな意外なほどに近くて・低い場所、地表100kmくらいの高さで輝いているのが流れ星です。 地表100kmくらいの高さでは、100〜200キロメートルくらい離れてしまうだけで、もう見ることができなくなってしまいます。 だから、私たちが見ることができるのは、私たちの周り100〜200キロメートルくらいのところに降り注いでいる流れ星だけで、数百km以上離れた人とは同じ流れ星を見ることはできないのです(参考記事)。

 これからクリスマスの頃までの夜、こぐま座の方向を眺めていれば、そこから四方に広がる流れ星を見ることができるかもしれません。 「こぐま座ってどこにあるの?」と思う人もいることでしょう。 けれど、大丈夫。 こぐま座を見つけるのは、とても簡単です。 だって、北極星もこぐま座の一部なんです。 だから、北の空に明るく輝く北極星のあたりを眺めれば、そこに浮かんでいるのがこぐま座です。

 クリスマスの頃までの北の夜空を、誰かと一緒に眺めてみるのはいかがでしょう。 とても近く、同じ場所から、同じ方向を眺めてみれば、もしかしたら、同じ流れ星を眺めることもできるかもしれません。

 先週末の土曜日、2011年12月10日の夜、たくさんの人たちが皆既月食を見上げていました。 あの夜、空に高く浮かぶ満月が急に三日月へと姿を変え始め、陰った部分は赤くなり…いつの間にか赤い満月が一時間近く空に浮かんでいました。その皆既月食中の月を眺め、幻想的なまでに「赤い」ことに驚いた方も多かったのではないでしょうか?

 太陽の光が地球に遮られて月に届かなくなると「月食」になります。 …しかし、太陽からの光が(地球から見える側の)月面に完全に届かないわけではありません。 実は、地球の周りにある大気中を通過した太陽光の一部が、大気中を通過し・方向を変えつつ月面を照らすのです。 その際、青色や緑色の光は地球の影の中に隠れた月面まで届かずに、(右図のように)赤色系統の光だけが月面まで辿り着きます。 地球の周りの大気中を、主に赤い色の光だけが通過し・少しづつ色々な方向に向きを変え・進み、その一部が月面を照らします。 だから、皆既月食中の月は赤く見える、というわけです。

 ちなみに、「地球の周りの大気中を、主に赤い色の光だけが通過し・少しづつ色々な方向に向きを変え・進む」のは、「夕焼けが赤くなる理由」と同じです。 地球上にいる私たちが眺める(地球の)地平線近くから差し込んでくる太陽の光が赤く見えるように、月面から眺めても、地球の地平線近くから差し込んでくる太陽の光はやはり赤く見えるのです。( 参考:宇宙ステーションから見た”夕焼け”

 だから、あの皆既月食の夜、私たちが見上げた「赤い月」は、実は(遙か彼方の)地球の周りに輝く”夕焼け”に照らされた赤い月だったのです。 皆既月食を迎えるとき、地球の月面は地球の影が作る夕焼けに照らされて夜になり、一時間ほどの夜を過ごし、そして、地球が作る朝焼けがその夜を終わらせます。 そんな”地球の夕焼けと朝焼け”に照らされて、赤く染まる月を、私たちがその地球の上から眺めていたのです。 …何だか、少し不思議で、とてもロマンチックですね。

 タイの洪水が収まらず、被害が拡大し続けています。タイの面積は日本の1.5倍ほどですが、日本の四国の面積にも匹敵する1万数千平方kmのエリアが洪水被害にあっています。

 今現在、タイの首都バンコクですら、周囲から押し寄せる水に囲まれ・浸水被害に襲われています。日本で例えるなら、東京の「板橋」辺りにまで水が流れてきている、とそんな状況になっています。

 下の動画は、バンコクの中心部よりやや北に位置するチャトゥチャック公園近くで撮影した「洪水の先端」です。秒速数cmという「とてもゆっくり」な速さでチョロチョロと流れていく、そしてバンコク中心部へ向かう道の先へと広がっていく「水の流れ」です。

水が街に近づいてくる速度は、場所によっても時間によっても違います。時速200m(1秒に約5cmの速さ)という記事もあれば、時速2km(1秒に約50cmの速さ)という記事もあります。私が観察した箇所では、一秒間に2cm強、時速にすると約100mほどの速度で、道路を水が流れ・進んでいました。一秒間に2cmというと一見とても小さい数字に思えますが、一日あたりにすると2km強も、水が通りを埋め尽くしていくことになります。そう考えてみると、このチョロチョロと流れる水ですら、少し恐ろしく思えてきます。

 しかし、「洪水の先端」を眺めつつ、同じ洪水といっても「山国である日本における洪水」と「タイの洪水」は結構違う”存在”なのかもしれないとも思わされました。「洪水」と聞いても、私たちは「こんなにゆっくりと進んでいく水の流れ」を思い浮かべたりはしないような気がする、と何だか感じさせられたのです。私たちが思い浮かべるのは「河のどこか一箇所が決壊し、そこから水が滝のように押し寄せてくる」というようなものであるような気がします。

 今日の「観察・研究報告」は、洪水に襲われるタイの首都バンコクで見た「道路を進む洪水の先端」です。