雑学界の権威・平林純の考える科学

 知識検索エンジンWolfram Alphaは、有名人や有名キャラクターたちの顔や姿といったさまざまな画像を「手書きイラスト風の曲線(数式)」にすることができます。それは、顔や姿を描く線を三角関数をパラメータとして表現するフーリエ記述子と呼ばれるテクニックで実現されています。(参考:「初音ミクやアラレちゃんを描く曲線」を作るテクニックの秘密検索エンジン Wolfram Alpha が作り・表示する各種の「曲線」の裏側

 フーリエ記述子で描画線を表した場合、言い換えれば曲線のパラメータをフーリエ級数で表現した場合には、鋭く曲がる線は苦手(高次数までのたくさんの項が必要とされる)です。そこで、「Wolfram Alpha同様のフーリエ記述子テクニックを使って、鋭い顔・姿を描くと果たしてどうなるか?」を試してみることにしました。…モデルは、もちろん世界一の鋭利な顔を持つ”カイジ”です。

 まずは、贅沢に180次の高次項まで使い、フーリエ記述子で表現してみたのが、この180次”カイジ”です。勝負の緊張・不安に襲われてはいるようですが、

止め処ない不安。
底知れぬ恐怖。
…オレは、それでも考え続ける!

的なカイジです。

 さて次は、50次項までで表現したカイジです。持ち金ならぬフーリエ級数の使用次数が足りなくなってくると、かなりプアー(貧しく乏しい)なカイジになっています。

…オレは!
どこでオレは間違えた?
限りない不安の嵐に押し潰れそうだ…!

なカイジです。

 そして、最初の約1/10、20次項までで描かれた20次カイジは…もう勝負も決し、カイジの中で何かが崩れ落ち・顔面が溶け始めています。そそり立ち鋭かったはずの鼻も、なんだか鼻高ガイジンさん変装グッズみたいです(あと、しりあがり寿のテイストも12パーセントくらい混じってます)。
 さらに(その右に貼り付けた)8次項までだけの8次カイジは、かすかに自慢の鋭利な鼻の片鱗がありますが、もうカイジには全然見えません。しかし、それと同時に、何だか現代美術の巨匠がサラサラと描いた…と言われても納得しそうなモダンアートな8次カイジになっています。

 このカイジを「さらに進化させた」のが、4次項までの4次表現カイジです。ここまで低次のみになると…もう、これは原始生物かエンドウ豆か何かにしか見えません。太古、すべての人類は、こんなミジンコ類似な生物の子孫だったのだ!的なカイジです。…いや、もうカイジではないですし、 これは「さらに進化させた」どころか「果てしなく退化させた/先祖返りした」状態です。金ならぬフーリエ表現次数が減ると…もう人間ですらないのです…。

ギャンブルを打つ者にとって
金は寿命!

博黙示録カイジ 1巻

 そして最後が、右に貼り付けた、1次の項だけで表現した単純1次のカイジです。「元始、全人類・全てのものは原子であった」的な存在になっています。…しかし、よくよく眺めると、こんな単純な存在まで遡っても、カイジ自慢の鋭い鼻の片鱗が残っていることが凄い!的なカイジです(もうすでにカイジじゃないですが…)。

 …こんな風に、マンガの図柄を数式で表された曲線にしてみると、マンガ化の絵柄の違いがわかって面白いかもしれません。たとえば、カイジは180次まで必要だけど、丸っこい絵柄の手塚治虫は10次までで十分だとか、ドラえもんは3次で十分だけど、スネ夫は(特に頭部は)80次の高次の項まで必要だとか…そんなマンガ図柄の特徴が見えてくるかも?…しれませんね。

 麻雀マンガ「バード」第2巻「雀界天使vs天才魔術師編」で、主人公の対戦相手である雀界天使 美人姉妹が、麻雀牌の背面(白い無模様の側)に「反射光が偏光するような塗料」で模様を付けておき・相手の麻雀牌の手を透視してしまう!というワザを使っていました。

 光は電磁波の一種で、電磁波は「電場と磁場が互いに生じさせる波」です。その振動方向が特定方向のみに「偏っている光」を偏光と呼びます。私たちの目は、実は光が偏光している方向を見る・知ることができます(参考:ヒトは電磁波の振動方向を見ることができるか?)。たとえば、液晶ディスプレイから発せられる光は偏光しているので、真っ白な画面を液晶ディスプレイに映し出すと、ハイディンガーのブラシ “Haidinger’s Brushes”と呼ばれる黄色がかった(2方向に延びる)放射状模様を眺めることができます。ハイディンガーのブラシの放射模様は偏光方向と対応しているので、私たちの目は光(電磁波)の振動方向を眺める・知ることができる、というわけです。

 さて、問題は「バード」で雀界天使 美人姉妹が使ったワザ、麻雀牌の背面(白い無模様の側)に「反射光が偏光するような塗料」で描いた模様を識別するというテクニック、…それは一体可能なのか?ということです。人の目は、ハイディンガーのブラシを介して「偏光」を眺めることができます。しかし、だからといって、偏光状態が異なる「細かい模様」を識別することができるわけではありません。

 ハイディンガーのブラシは、網膜黄斑部の繊維組織および色素が配列方向性があり、直線偏光に対して異方性(偏光方向成分に応じた光吸収差)を持つことによって生じます。そして、ハイディンガーのブラシは比較的「一様な偏光」が網膜にあたることで生じます。生じるのは、 網膜黄斑部の中心窩を中心とした2.5°程度(視角にすると1°程度)の範囲です。逆に言えば、その程度の範囲に対して「偏光状態が一様」でないと、ハイディンガーのブラシを見ることはできない、ということです。そしてまた、私たちが眺める場所を変えることで、その眺めた場所の偏光特性を知ろうとしても、視角にして1°程度の分解能でしか(その場所の)偏光特性を知ることはできないのです。

 麻雀牌の背面(白い無模様の側)に「反射光が偏光するような塗料」で描いた模様を識別しようとした場合、麻雀卓を囲む相手、例えば対面(といめん)の麻雀牌は、麻雀卓が70cm角程度ですから、およそ1メートル先にあります。そして麻雀牌の大きさは、およそ 26mm×20mm程度で、そこに描かれた模様を知るためには、3mm程度の細かさを識別する必要があります。

 これは、視角にすると0.17°に過ぎません( 視角=360/π×ArcTan( 0.3 / 100 / 2 ) )。つまり、残念ながら、そんな細かい模様をハイディンガーのブラシを介して識別することはできないのです。

 というわけで、今回は、ちょっとエッチな麻雀マンガ「バード 雀界天使vs天才魔術師編」の美人姉妹が使った麻雀裏テクニックを科学してみました。その結果は、「残念ですが、そのテクニックはちょっと無理・実現不可能」…となりました。

 「The Five-Card Trick Can Be Done with Four Cards(ファイブ・カード・トリックは4枚のカードで行うことができる)」という論文で知った「ファイブ・カード・トリック(“five-card trick”)」が面白かったので、このファイブ・カード・トリックをマンガ「カイジ」に登場しそうな「独自ゲーム」風に紹介してみることにします。

 観客を前にした男と女がいます。この男女2人が「両思い」であるかどうか(だけ)を観客たちに対して確認をしたい、とします。「両思い」であるかどうか(だけ)を確認したいというのは、たとえば両思いでなかった場合には、それは「2人ともに相手を好きではなかったのか・あるいは片思いだったのか(ましてやどちらが片思いだったのか)」といったことが観客にはわからないようにしたい、ということです。…どちらかの片思いだと周りに知られてしまったり(ましてや片思いをしていたのが男と女のどちらかだなんて他の人たちにわかってしまったり)しないように、両思いであるか否かだけを知りたい、というわけです。

 そんな愛情確認ゲームをしたい時には、「す」カードを2枚、「き」カードを3枚用意します。それらのカードは、表には文字が書かれ、そして裏には何も描かれていません。そんなカードを、男と女に「す」カードと「き」カードを1枚づつ配るのです。そして、

①.まず男がカードを(文字が見えないように裏向きで)次のように置きます
  ・好きなら:(下から)「す」「き」の順で重ねる
  ・好きでなければ:(下から)「き」「す」の順で重ねる
②.次に「き」カードを(男のカードの上にさらに)裏向きで重ねて置き
③.さらに、そのカードの上に女が(文字が見えないように裏向きで)次のように置きます
  ・好きなら:(下から)「き」「す」の順で重ねる
  ・好きでなければ:(下から)「す」「き」の順で重ねる
④.そして、5枚のカードを(どこで切ったか誰にもわからないように)適当な場所で切り、シャッフルする
⑤.最後に、5枚のカードを、円を描くように並べて、カードを表向きにひっくり返す

ということをします。…すると、両思いなら「き」カードが3枚続けて並んでいて、そうでなければ「両思いではない」ということがわかる、というのが「ファイブ・カード・トリック(“five-card trick”)」です*。

 実際にやってみると、①②③をした段階で、両思いなら「き」が3枚続けて並びます(両思いでないと、3枚続けて「き」が並ぶことはありません)。そして、④⑤をしても、その「3枚並びの関係」は変わらないのです。しかも、両思いで無かったとき=「き」が3枚並びでなかった場合、男と女のどちらかの「片思い」だったのか(あるいは)別に片思いですらなかったのか…ということは、(男と女の本人たち以外には)わからないのです。

 「両思いか=カップル成立かどうか」を題材にしたゲームは、(昔ながらのプロポーズ大作戦的なフィーリングカップルなど)よくあります。しかし、そんなゲームの多くは両思いではなかった場合に、「片思いの状況」が周りにわかってしまうという切ない状況になったりします。…そんな哀しい状況を避けるためには、こんな「両思いかどうか」だけをヒミツに純粋に確認することができる!㊙愛情確認ゲームがお勧めかもしれませんね。

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 冒頭の「The Five-Card Trick Can Be Done with Four Cards(ファイブ・カード・トリックは4枚のカードで行うことができる)」という論文は、このゲームを「4枚のカードで行うことができる」というものです。