雑学界の権威・平林純の考える科学

 麻雀マンガ「バード」第2巻「雀界天使vs天才魔術師編」で、主人公の対戦相手である雀界天使 美人姉妹が、麻雀牌の背面(白い無模様の側)に「反射光が偏光するような塗料」で模様を付けておき・相手の麻雀牌の手を透視してしまう!というワザを使っていました。

 光は電磁波の一種で、電磁波は「電場と磁場が互いに生じさせる波」です。その振動方向が特定方向のみに「偏っている光」を偏光と呼びます。私たちの目は、実は光が偏光している方向を見る・知ることができます(参考:ヒトは電磁波の振動方向を見ることができるか?)。たとえば、液晶ディスプレイから発せられる光は偏光しているので、真っ白な画面を液晶ディスプレイに映し出すと、ハイディンガーのブラシ “Haidinger’s Brushes”と呼ばれる黄色がかった(2方向に延びる)放射状模様を眺めることができます。ハイディンガーのブラシの放射模様は偏光方向と対応しているので、私たちの目は光(電磁波)の振動方向を眺める・知ることができる、というわけです。

 さて、問題は「バード」で雀界天使 美人姉妹が使ったワザ、麻雀牌の背面(白い無模様の側)に「反射光が偏光するような塗料」で描いた模様を識別するというテクニック、…それは一体可能なのか?ということです。人の目は、ハイディンガーのブラシを介して「偏光」を眺めることができます。しかし、だからといって、偏光状態が異なる「細かい模様」を識別することができるわけではありません。

 ハイディンガーのブラシは、網膜黄斑部の繊維組織および色素が配列方向性があり、直線偏光に対して異方性(偏光方向成分に応じた光吸収差)を持つことによって生じます。そして、ハイディンガーのブラシは比較的「一様な偏光」が網膜にあたることで生じます。生じるのは、 網膜黄斑部の中心窩を中心とした2.5°程度(視角にすると1°程度)の範囲です。逆に言えば、その程度の範囲に対して「偏光状態が一様」でないと、ハイディンガーのブラシを見ることはできない、ということです。そしてまた、私たちが眺める場所を変えることで、その眺めた場所の偏光特性を知ろうとしても、視角にして1°程度の分解能でしか(その場所の)偏光特性を知ることはできないのです。

 麻雀牌の背面(白い無模様の側)に「反射光が偏光するような塗料」で描いた模様を識別しようとした場合、麻雀卓を囲む相手、例えば対面(といめん)の麻雀牌は、麻雀卓が70cm角程度ですから、およそ1メートル先にあります。そして麻雀牌の大きさは、およそ 26mm×20mm程度で、そこに描かれた模様を知るためには、3mm程度の細かさを識別する必要があります。

 これは、視角にすると0.17°に過ぎません( 視角=360/π×ArcTan( 0.3 / 100 / 2 ) )。つまり、残念ながら、そんな細かい模様をハイディンガーのブラシを介して識別することはできないのです。

 というわけで、今回は、ちょっとエッチな麻雀マンガ「バード 雀界天使vs天才魔術師編」の美人姉妹が使った麻雀裏テクニックを科学してみました。その結果は、「残念ですが、そのテクニックはちょっと無理・実現不可能」…となりました。