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 「右に倣(なら)え」というと、「自分の右(手)にいる人を合わせて・ならって動け」という号令で、「周りの人に追随したり・真似をしたりすること」を意味したりする言葉です。この「右にならえ!」は、どうして左でなくて「右」なのでしょう?

 「右にならえ!」というのは、元々は軍隊用語です。19世紀の後半に、江戸時代末期の幕臣、伊豆半島の根元にある伊豆韮山の代官だった江川英龍が、家臣の石井修三に(英語で言えば”Dress right dress!”という)オランダ語の兵隊に対する演習用語を日本語に訳させたものです。下に貼り付けた動画を見ればわかるように、”Dress right dress!”というのは兵隊側からすると「自分の右手を基準にして動く」ということですし、眺める側から言うと、向かって左側を基準にして兵隊たちがそれぞれ動く(自らの体を動かす)、ということです。

 「右にならえ!」が(兵士にとって)左でなく右であるということ、つまり眺める側から言うと「向かって左側を基準にして」兵隊たちが自分の体を動かすと聞くと、違和感を感じる方も多いはずです。…それはもちろん、日本では古来から「上手=偉い・基準となる」側は左手(眺める側から言うと、向かって右側)であるからです。たとえば、吉本新喜劇でも、TV番組でも、偉い側=上手(かみて)は常に向かって右側(=演じる側からすると左側)に位置するはずだからです。兵隊たちが、自身の右側(=兵隊たちを眺める側からすると向かって左)を基準にして動くというのは、日本古来の上下関係を無視した動きに思えてしまいます。

 それでは、「右にならえ!」は(日本の伝統とは逆に、向かって左側=兵隊からすると右手側が高位だとみなす伝統に沿う)西洋の振る舞いを、そのまま「輸入」したものなのでしょうか?つまり、西洋に「右にならえ!」したものなのでしょうか?

 実は、日本の伝統では「軍隊の順位・偉い側=上手(かみて)」は、左側(眺める側から言うと、向かって右)でなく右側(眺める側から言うと、向かって左側)なのです。なぜかというと、(めでたい場・あるいは普通の場=吉事のことでない)凶事に関しては、たとえば戦いに関するもの(あるいはお葬式といったこと)に関することに対しては、上位と下位の優先順位が逆転する、という決まりがあるからです。つまり、日本古来の軍事の世界では、自分の右手(側)には自分より高位の側がいて、自分の左手(側)には自分より低位の側が並んでいるのです。

 つまり、「左にならえ!」でなく「右にならえ!」が頻繁に使われ・定着した理由は、日本の兵士の世界では、「自分より偉い側を基準にして・兵隊たちを動かすのが自然だった」からです。…下位とされる側(左側)を基準にして(上位とされる右側が)動くことは不自然ですから、「右にならえ!」が頻繁に使われるようになり、普通の言葉としても定着していった…というわけです。

 「右にならえ!」が左でなく右にならう理由、…それは実はとても奥深いものでした。「右にならえ」は、「周りの人に追随したり・真似をしたりする」のではなく、「偉い人に合わせて動く」という歴史を背景にした言葉だったのです。…うーむ。