フェルメールは、普通の風景を柔らかく写実的に描いた17世紀オランダの画家です。そのフェルメールが描いた「ミルクを注ぐ女」の世界を3次元空間として復元したのが、View Paint(Point)です(詳しい動画解説)。「ミルクを注ぐ女」が一点透視図法で精密に描かれていることを利用して、幾何学的な関係式やさまざまな歴史資料を元にして、絵画「ミルクを注ぐ女」が描かれた部屋や登場する人や物を、すべて3次元空間上で作り直した…というわけです。その製作秘話(凸版印刷 奥窪氏)を聞き、一番面白かったのが、「ミルクを注ぐ女」を3D化した際に気づかされたという、「絵画に描かれている、現実の世界ではありえないこと」でした。そのひとつが、「ミルクを注ぐ女」が持つ水差しは「ミルクが流れ出ることは不可能な角度だ」ということです。
確かに「ミルクを注ぐ女」を眺めてみると、「ミルクを注ぐ女」が手に持つ水差しからはミルクが流れ出ることは不可能であることに気づかされます。水差しから滴るミルクは、太さがほぼ一定でおおよそ真っ直ぐ鉛直になっていますから、ほとんど動かない(定常)状態の水差しからミルクが落ちているように見えます。その一方で、画を描く視点は、水差しの口より高い位置にあるにも関わらず、水差しの中(入口の奥)には(地球の重力に従って、水差しの口と同じ高さで・ほぼ水平面になっていなければならないはずの)ミルクが全く描かれていないのです。…つまりは、「ミルクを注ぐ女」が手にする水差しの中には、「流れ出す」ことができるミルクは存在していない、というわけです。一体、これはどういうことなのでしょう? フェルメールは、なぜありえない風景を描いたのでしょうか。
…画を描く時の風景を考えてみると、フェルメール「ミルクを注ぐ女」に描かれていたのは、実は「空の水差しを押さえつける女」だったのではないでしょうか。つまり、モデルの女性に「ミルクが入った水差し」を長時間にわたって手に持ち続けてもらうのは大変ですし、その水差しから延々とミルクを注ぎ続けるのも(水差しの中のミルク量は有限ですから)不可能です。…となると、画を描いた時には、モデルには空の水差しを持たせていたのではないだろうか?と思えてきます。さらには、「水差し」だって決して軽いものではないでしょうから、実は「水差し」の腹部分は陶製容器上に乗せられていて、そんな陶製容器の上に乗っかった「水差し」をモデル女性はただ押さえつけているのではないだろうか?という気がしてきます。そう考えながら「水差し」周りを眺めてみると、水差しは陶器容器に接触している位置関係に見え、水差しを手にする女性の右手は(水差しが陶器容器と接触する点のピッタリ反対側から)陶器容器側に押さえつけてるようにも見えてきます。
さらには、「ミルクを注ぐ女」は空の水差しを陶器容器に乗っけていただけではなく、陶器容器の背後には水差しを乗せるための、つまり女性の左手が水差しの底を持ち上げるための苦労をしなくてすむようにするための、「台」なんかもあったりしたのじゃないだろうか?といった想像すらしたくなります。画を描くフェルメールの前にいたのは、何も入っていない水差しを・陶器容器や(陶器容器の背後に隠された)支持台の上で軽く押さえている女性で、流れ出るミルクは一番最後に「(全く別の瞬間を)重ね書き」されたものだったりするのかもしれない…という想像をしたくなります。
ちなみに、「ミルクを注ぐ女」を3D化した際に気づかされた他のことは、女性の左腕が「ありえないほど太く描かれていた」ということだったそうです。この絵の中心で力強さや存在感を与えている「女性の腕」が、現実とは異なるけれど、フェルメールが描いたものだったのです。
スカートを履いた女性がチョコレートを取ろうとして屈んだ瞬間に、スカートがめくれ上がってしまう、という動画があります。こんな動画を眺めると、どうすれば同じようなテクニックを駆使することができるのか!…じゃなかった、どういう屈み方をすればスカートがめくれ上がらずに済むかを、調べ解き明かしたくなります。そこで、「風でめくれるスカート」の科学!「涼しく晴れた朝の地下鉄駅をドジっ娘が走る」とスカートは必ずめくれる!?の法則の時と同じように、流体力学や衣服学を駆使して「スカートめくれ」を実現する…じゃなかった防ぐための屈み方を考えてみることにしましょう。
まずは、女性が屈み込んでいく際の動きを思い浮かべてみると、およそ2m/s^2くらいの加速度であるように思えます。2m/s^2 程度の加速度で0.5秒くらい下向きに加速して・そして残り0.5秒ほどで屈む速度が減っていき、結果として1秒ほどで50cmくらい屈み込むという具合です。このような動きをすると、腰の部分が下に向かう速度は最大で秒速約1mになります。
次に、腰が秒速約1mで下に屈もうとする時のスカートの動きを考えてみると、スカートに働く力は重力と(下に下がっていくスカートが)スカート上下の空気から受ける抵抗です。それらふたつの力がスカートにかかっている時、一体スカートがどういった動きをするかということを、
- ・スカート端の直径が70cm
- ・スカートの重さが150グラム
という条件で計算してみると、スカートは1.1m/s^2の加速度で下へと動いていく…という結果になります。
女性の腰が2m/s^2 程度の加速度で動いていくのに対して、(それより遅れて)スカートが1.1m/s^2の加速度で下へ動いていく、ということは、女性の腰を基準にすれば、スカートが相対的に2 – 1.1 =0.8m/s^2の加速度で めくれ上がっていく…ということになります。だから、上の動画のように、スッと屈み込もうとした女性のスカートがフワリと浮かび上がってしまったわけです。
それでは、一体どうすれば「スカートがめくれ上がらずに済むか」というと、ほんの少しだけ屈む速度を遅くしてやれば良いのです。たとえば、上のスカート端や重さの条件れあれば、屈み込む加速度を1.8m/s^2よりゆっくりにしてやれば、スカートがめくれ上がることを防ぐことができます。
…というわけで、「スカートめくれ」を防ぐためには、いくら美味しそうなチョコレートが落ちていたとしても、(自分のスカートの大きさや重量から計算して導かれる)一定以下の速度に保つようにするということになります。あるいは、「スカートめくれ」を実現させるためには、思わず屈み込む速度が(計算から導かれた)所定の値を上回るような魅力的な食べ物を落としておく!ということになるのです。
森羅万象・古今東西のスカートのめくれを解き明かすことができるなんて考えると、色んな科学を勉強したくなりますよね!
次の問題に答えてみて下さい(持ち時間10秒)。
全10問の2択問題をデタラメに答えた時、正解数5問以上になる確率は何パーセントでしょう?
この問題、私のリサーチでは95パーセント以上が「全10問で5問以上正解なら…当然50パーセントじゃない?」と答えます。もちろん、その後、「けれど、そんな出題をワザワザするということは、そうじゃないってこと?」と訝(いぶか)しげな顔をする人も多いのですが、少なくとも最初は「50パーセント」という答が(ほぼ確実に)返ってきます。
しかし、この問題の答は「約62パーセント」です。「全10問の2択問題をデタラメに答えた時、正解数5問以上になる確率は約62パーセント」で、五割より(かなり)高い確率で”正解数が5問以上になる”のです。…といっても、「全10問の2択問題をデタラメに答えた時、間違った答が5問以上になる確率も同じく約62パーセント」です。…そろそろ「この問題のトリック・タネ」がおわかりになったかと思います。全10問の2択問題がある時、次の3通りの状況があります。
- A. 正解の方が多い
- B. 正解と誤答の数が同じ
- C. 誤答の方が多い
そして、「A. 正解の方が多い」と「C. 誤答の方が多い」は、対称性から当然「同じ数だけある」わけです。そして、「全10問で5問以上正解」というのは、「A. 正解の方が多い」に加えて「正解数(=5)と誤答数(=5)が同じ」というBの状態も含みますから、当然のごとく、「C. 誤答の方が多い」だけより「A. 正解の方が多い」と「B. 正解と誤答の数が同じ」の和の方が多くなり、
50%よりも確率が高いのが”当然”です。
実際、その確率を計算してみると(右図)、638 / 1024 ≒ 62パーセントという確率になります。 けれど、ほぼすべての人の「感覚」「印象」では、なぜか「全10問の2択問題をデタラメに答えた時、正解数5問以上になる確率は50パーセントという答」の方を自然だと感じるのです。これは、一体どうしてなのでしょうか。
どうやら、私たちの頭の中では、「全10問のうちの5問正解という状態」は、「真っぷたつにしたときの上半分」というように誤変換されてしまうようです。「10という数字は2で割れて、2で割ると5になる」という印象が強いせいなのか、あるいは、10進数で0~9までを「四捨五入」でふたつに分けることに慣れたせいなのか…その理由はよくわかりませんが、「全10問の2択問題、デタラメな答で正解数5問以上の確率」を尋ねると、ほぼ100パーセントの人が「50パーセント!」と答えるのです。
この問題で何より一番面白いことは、「私たちの考え方・感じ方が、この問題に(なぜか)間違った答を返したがる」ということ、そして「その理由は一体何なのだろう?」を考えてみても、その「正解」がなかなか見つからないことかもしれません。・・・あなたなら、一体どんな「理由・原因」だと考えますか? 私たちの頭の中に仕掛けられた「間違ったロジック回路」の仕組みが知りたい…とは思いませんか?