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 何年も前、深夜TV番組ロケで、大きな送風機を抱えて、スカート姿に風をあてて、スカートがめくれやすい条件を調べる実験をしたことがあります。さまざまな種類のスカートに、(手で持った送風機で)さまざまな風のあて方をする…という実験を延々2時間以上しましたが、スカートを風でまくり上げるのは意外なほど難しいものでした。

 しかし、送風機の風でスカートをまくり上げるのが難しかったのは、風を横からあてていたからで、スカートの下から強風を送れば、もちろん一瞬でスカートは吹き上げられてしまいます。それはつまり、「下から風が吹くような場所」ではスカートが風でめくれやすい、ということです。スカートは、種類によって違いますが、およそ100〜350グラム程度の重さです。そんな重さのスカートを持ち上げることができる程度の風が、スカートの下方向から吹けば、風によってスカートはめくれあがってしまうことになります。

 「下方向から風が吹く」場所として、地下鉄駅のホームに降りるエスカレータがあります。地下鉄のホームに列車が近づいてくる時には、駅に近づいてくる列車が空気を圧縮し・ホーム近くの気圧を高めるため、ホーム側から(上部フロアに向かう)階段・エスカレータ通路で、上部フロアに向かう風が吹きます(参考:地下鉄の風)。この「列車風」と呼ばれる風は、条件によって異なりますが、たとえば風速5m/s程度になることがあります。それでは、スカートの下方向から吹く風速 5m/s の風がスカートをめくり上げることができるのでしょうか?

 非粘性流体のエネルギー保存則であるベルヌーイの定理を使うと、スカート下部から吹く風が「スカートを持ち上げようとする力」は、

空気の密度 × スカートに下部から風が吹き込む面積 × 風速 × 風速 / 2

で見積もることができます。空気の密度を1.13(kg/m^3)として、スカートに下部から風が吹き込む面積は(ヒップ90cmの女性で見積もると)0.06(m^2)程度でしょう。そして、ホームに向かうエスカレータに吹く列車風が5(m/s)とすると、

「スカートを持ち上げようとする力」=1.13× 0.06 × 5 × 5 / 2 = 0.85 (N)

になります。0.85 (N = ニュートン)ということは、0.85 (N) / 0.98 = 0.86kg重=86グラムのものを持ち上げるのと同じ大きさの力ということですから、重さ86グラムのスカートであったなら、ホームに向かうエスカレータ通路に5m/sの列車風が吹くとスカートがめくれあがってしまう、ということになります。とはいえ、スカートの重さは、冒頭に書いたように100〜350グラム程度ですから、重さ86グラムのスカートは「素材が非常に薄く軽い特殊なスカート」ということになります。だから、普通のスカートであれば、この程度の風では、スカートがめくれる可能性は低いわけです。

 しかし、スカート女性がエスカレータを急いで電車に乗ろうと駆け下りていたりすると、話は大きく変わります。たとえば、女性がでエスカレータを駆け下りていて、下りエスカレータ速度と駆け下りる速度が加わり(下りの速度が)秒速1m程度になった場合には、この1m/sが風速(5m/s)に足し合わされることになり、

「スカートを持ち上げようとする力」=1.13 × 0.06 × (5+1) × (5+1) / 2 = 1.2 (N) = 0.12 kg重

となり、重さ120グラム程度の(結して珍しくはない)スカートがめくれあがってしまうようになるのです。

 ちなみに、空気の密度は「高気圧で気温が低くて湿度が低い」時に重くなります。たとえば、1気圧・気温40 ℃・湿度0%の空気の密度は1.13 kg/m^3ですが、気温が0°まで下がると、密度は1.29 kg/m^3になります。また、気圧が5%高くなれば密度も5%高くなります。…そうした条件がすべて加わると、つまり「涼しく晴れた高気圧の温度が低い朝の地下鉄駅で、下りのエスカレータを(遅刻をしまいと)ドジっ娘が駆け下りる」状況で計算すると、

「スカートを持ち上げようとする力」=1.29 × 0.06 × (5+1) × (5+1) / 2 × 1.05 = 1.5 (N) = 0.15 kg重

となり、重さ150グラム程度の平均的な薄手スカートがめくれあがってしまう!ということがわかるのです。

 さらに言えば、列車風は「上り・下りの両ホームに同時に列車が進入してきて、その列車がどちらも(その駅には止まらない)通過列車だった」という時に、最大風速を記録しそうです。ということは、駅に止まらない通過列車がある地下鉄副都心線の(大きくない)駅などが、エスカレータ通路にスカートがめくれやすい風が吹く「スカートめくれの危険スポット」ということになります。

 計算してみると色んなことがわかる!というわけで、今回は「風でめくれるスカート」を科学してみました。「涼しく晴れた朝の地下鉄駅をドジっ娘が走る」とスカートが必ずめくれる!?くらいの力が生じてしまうのです。