雑学界の権威・平林純の考える科学

 息子のDNA鑑定をしたら「父子確率ゼロ」と判定され、息子の父親は自分ではなかったと判明した…という芸能記事が、昨年テレビや雑誌を賑わせていました。

 マンガ「サザエさん」を読んでいると、サザエさんのカツオに対する態度はまるでお母さんのようだ!と思うことがありました。磯野家の長女サザエも長男カツオも、磯野波平と磯野フネのこどものはずなのに、サザエはカツオの母のように思えることもあったりするのです。 そんな時、「…も・もしかしたら、カツオは本当にサザエの息子なんじゃないか!?」というトンデモない想像が頭をよぎります。 サザエが誰かと愛を育んで、そして人知れず生まれたのがカツオだったのではないか!?などという想像を巡らせてしまったりすることがあります。

 もちろん、そんな想像が合ってるのか・間違っているのかは、DNA鑑定すれば一発でわかるはずです。しかし、こんな想像もしたりします。もし、サザエさんが愛し合った相手が磯野波平の双子(しかもどうみても一卵性双生児)の兄弟である磯野海平だったりしたら、DNA鑑定では区別することができなかったりしないでしょうか…? つまり、「カツオの父親は磯野波平で、母親は磯野フネと考えられる」という鑑定結果が出ても、実はそれは「磯野海平とサザエのDNAだった!」ということがありうるものでしょうか?

 そういうことが起こりうるのは、たとえばカツオの母親をミトコンドリアDNAで判定し、カツオの父親をY染色体で判定したような場合です。なぜかというと、ミトコンドリアDNAは母からのみ受け継ぐので、磯野カツオがフネの息子でも(フネの娘である)サザエの息子であっても、全く同じ(磯野フネの)DNAを受け継ぐことになります。もちろん、カツオが父親から受け継いだY染色体を調べてみても、磯野波平と磯野海平のY染色体は全く同じなので、カツオの父親が波平なのか海平なのか判別することができない、というわけです。

 しかし、実際には、カツオが磯野サザエと海平の息子であったとしたら、カツオが「フネと波平の息子ではない」ということを、かなりの確率で判定することができます。DNA鑑定でよく用いられるSTR法は、父母ともから受け継いだ染色体十数個に対して特徴判定を行っているからです。それは、およそ次のような理屈になります。

 まず、フネの持つ遺伝子特徴をフネA・フネBとして、波平の遺伝子特徴(=海平の遺伝子特徴)を波平A・波平Bとすることにしましょう。 すると、カツオがフネと波平の息子であった場合、カツオが持つ可能性のある遺伝子特徴は「フネA(もしくはB)+波平A(もしくはB)」になります。しかし、カツオがサザエと海平の息子であった場合、カツオが持つ可能性のある遺伝子特徴は「フネA(もしくはB)+波平A(もしくはB)」になることもあれば、「波平A(もしくはB)+波平A(もしくはB)」になることもあります。その可能性は、フィフティ・フィフティです。つまり、1/2の確率で、カツオが持つ遺伝子特徴が「フネと波平の息子ではありえない」組み合わせになってしまいます。そして、そうした特徴判定を染色体十数個に対して行ったなら、カツオが「サザエと海平の息子」なのに、遺伝子特徴が「フネと波平の息子の場合」と一致する可能性は、(1/2)の十数乗もの少ない確率しかありえない…ということになるわけです。

 というわけで、ご安心下さい。 カツオが実は磯野海平とサザエの息子だったとしても、その事実はDNA鑑定で簡単に明らかにすることができるようです。 といっても、そんな心配をしたことがある人は、とても少ないかもしれませんが…。