雑学界の権威・平林純の考える科学

 冬の白銀の世界は、美しいと同時に厳しく恐ろしい存在です。 たとえば、ほんの少し吹雪くだけで視界を失ってしまい、全く方向がわからなくなったりします。

 吹雪くとき…つまり雪が降り・風が吹く時の視界=視程は、(実験的に求められた)このような式で表すことができます*。

 視程(m)=10^(-0.886 Log[飛雪空間密度(g/m^3) 速度(m/s)] + 2.648)
上式でとても興味深いのは、視界(視程)が「1立方メートルあたりに存在する雪の重量(飛雪空間密度)」と同じくらい「雪の速度」に影響を受ける、ということです。 つまり、たとえば風速(雪を動かす風)が2倍増すと、あたかも目の前を舞う雪の量が2倍増えたのと同じ影響がある、ということになります。下の2枚のグラフは、

  • 左:雪が秒速35cmで降っているとき、雪の量が変わると視界がどうなるか
  • 右:雪が1立方メートルあたり1g存在するとき、雪の速度が変わると視界がどうなるか
を示したものです。雪粒子の量が増えると視界は悪くなるのは当然ですが、雪粒子が早く動くようになると、それでも同じように目の前の視界が失われてしまうことがわかります。

 

 しんしんと静かに美しく降る粉雪も、ほんの少しの風が吹き始めただけで、視界を失わせる吹雪へと姿を変えてしまいます。吹雪中での視界距離の式を見ると、雪を舞わせる風の怖さを実感するのではないでしょうか。


*吹雪時に人間が感じる視程と視程計や吹雪計による計測値との関係(武知ら)