雑学界の権威・平林純の考える科学

 京都にある古くからの家の作り、京町家には「居住スペース」の両側に庭があり、その片側の庭にだけ打ち水をすると、暑いままの庭に上昇気流が発生し、水を打った冷やされた庭から涼しい風が座敷を貫通し流れていく、という話があります。

 古くから続く京都の町家は、まさにウナギの寝床のようで、入り口から最奥部の坪庭まで部屋と通路が真っ直ぐ続きます。居住空間を囲む両側に、交互に水を撒くことで(水を撒いた側の)地面とその上にある空気を冷やすだけでなく、温度差を作り・空気の密度差を作り、結果として、家の中を心地良く吹く風の流れを作る…というのです。

京町家模型で確かめる打ち水の科学

 ためしに京町屋の中にある「庭」に水を撒いたとき、家の中を吹き抜ける風の動きを試算してみると、およそ秒速0.5メートルくらいの「かすかな風」が吹きそう、というようになります。

 坪庭は高い壁に覆われています。その壁の高さは4mとしましょう。そして、水を撒くことで、(高さ4mの)坪庭内の気温が2度(外気より)下がったものとします。少しひんやりした坪庭は、坪庭最下部横から(居住空間を介して)暑い外へと空気が通り抜けることができるとします。すると、坪庭内と外部との圧力差で生じる風速はおよそ0.5m/s強、となります。

「打ち水で京町屋を通り抜ける風の速さ」を計算しよう!

 しかし、水を撒く場所を、「(壁に囲まれた)家にある中庭」でなく「家の前の路地」に巻いたような場合、冷えた重い空気は家の中に吹き込むことなく、ただ通りに沿って他の場所に流れてしまいます。

 そこで、もう一度「京町家模型で確かめる打ち水の科学」で引用した文章を読み直してみると、「居室空間の両側に庭があることが、打ち水には大切な要件だ」と書いてあります。なるほど、水を撒くのは、家の前の路地ではなく、居住空間を挟む「(高い壁に囲まれた)庭」だった、というわけで、この「打ち水のキマリ」とても納得できる話です。

 京町家では居室空間の両側に庭がある。そのことが打ち水には大切な要件だと、ご夫妻(西陣帯地「渡文」当主渡邉夫妻のこと)にお教え頂いた。

京町家模型で確かめる打ち水の科学

 ところで、2つの庭の温度差が生む気圧差によって風を生じさせようとしたならば、「交互に水を撒く」のではなく、いつも片側の庭を「(外気と同じ)灼熱状態」のままにして、もう片側の庭だけを打ち水で冷やしていた方が効率が良いような気もします。ふたつの庭の間を吹き抜ける風の速さは、(その瞬間に気化熱で冷却される熱量ではなく)庭の温度差に依存しますから、交互に冷やしたりせず「熱い」「冷たい」の機能を分離した方が(生じさせる風速に関しては)効率が良くなりそうです。

 …さてさて、暑い夏が「夏真っ盛り」でスタートしました。夏休みの自由研究に「打ち水の科学」を選んで実験・解析をして、あなたの部屋や、あなたの家の前を、あるいは、あなたが暮らす街をちょっと涼しくしてみるのはいかがでしょうか?