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 「視聴者から寄せられた依頼に基づき、世のため人のため、公序良俗・安寧秩序を守るべく、この世のあらゆることを徹底的に調査追及する娯楽番組」である探偵ナイトスクープ(大阪 朝日放送)で、「アホ・バカ分布図」というものが作られたことがあります。 これは、「アホとバカの境界線はどこか調べて欲しい」という依頼をきっかけに、日本の各地域でバカ・アホ・タワケ…一体どの言葉が使われているかを調べ上げた一大娯楽研究です。 「探偵」たちが日本全国津々浦々を調査した結果、浮かび上がってきたのが「(京都を中心として同心円を描く)アホ・バカ…分布図」でした。 つまり、柳田國男が「蝸牛考」で提唱した「方言周圏論」のように、(昔の文化中心だった)京都周辺で生まれた新しい言葉が、時間をかけて日本列島に広がり伝わっていき、古い言葉が京都から離れた場所に残り、京都に近づくほど(後に生まれた)新しい言葉が使われている、というわけです。

 そんな日本全国の「アホ・バカ分布図」をもとに、日本列島の中で文化・言葉が伝わっていくようすをモデル化しシミュレーション解析した論文があります(PDF: “Modelling the Spatial Dynamics of Culture Spreading in the Presence of Cultural Strongholds“)。 デンマークのコペンハーゲン大学ニールス・ボーア研究所(!)と九州大学の研究者によるこの論文は、各地域・地点ごとに定まる他地点(主には周辺)との繋がりにしたがって情報が伝搬し「新しい言葉が古い言葉を塗り替えていく(たまに古い言葉が残ることもある)」としたら、日本列島にどんな「アホ・バカ」分布が描かれるだろうか、ということを調べた研究です。 公開されている、シミュレータを使うと、たとえば、右に貼り付けたような(結構リアルな)アホ・バカ分布図を描き出すことができます。

 ところで、このシミュレータ(モデル)では、「言葉(文化)が生まれる源(地域)」や「言葉(文化)が素早く伝わる経路」も任意に設定することができます。 たとえば、次に(右に)貼り付けてみたのは、「文化が大阪・東京から生まれ、大阪と東京の間では情報は一瞬で伝わる」という条件、すなわち(「すべての文化は京都から生まれる」という過去の日本条件とは事なり)現代日本に近い条件でのシミュレーションを行うこともできたりします。 そんな風に、色々な場所で「新しい文化」が生まれ、それが色々な経路で(時にはショートカットを介して)伝わっていくようすを眺めてみると、とても面白いと思います。

 そういえば、エスカレータで「片側を(急いで登る人のために)開けておく」とき、関東地方では「右側」を開けますが、大阪や京都などでは「左側」を開るのが一般的です。 しかし、京都でも「新幹線の乗り降りのためのエスカレータ」に立つ人々は、関東地方と同じように(自分は左側に立ち)右側を開けています。 もちろん、新幹線用の改札を抜けて、西明石行きの快速に乗るためにエスカレータを降りようとすると、そこに立つ人は右側にいます。 つまり、京都駅の新幹線用の構内は、京都という場所にあるけれど、文化的には(局所的に)「関東圏と直結している場所」なのです。 新幹線はまさに文化(人)を離れたところに一瞬で伝える「ショートカット」です。

 さて、現代は新幹線より速く、あるいはTV放送より速く、 twitter などで情報が伝わる時代です。 こんな時代の「アホ・バカ分布図」…何かしらの「文化地図」を描き出したら、一体どんな風になるのでしょう? …それにしても、探偵ナイトスクープ「アホ・バカ分布図」をニールス・ボーア研究所(と九州大学)の研究者がシミュレーション研究してる!?なんて、何だかとても面白いと思いませんか?