雑学界の権威・平林純の考える科学

 昔、「○×枚の紙幣から○×枚+1枚の紙幣を作り出してしまう」という禁断の偽札が出回ったことがあります。 それは、

  1. 何枚もの紙幣を途中で切断し、
  2. 切断した紙幣を他の紙幣と貼り合わせる
というだけの、とても原始的な方法で作られた偽札でした。 たとえば、下に貼付けた写真では、写真左部に「少しづつ違う位置で切断した(子供銀行発券の)千円札」が並べられています。 そして、切断した千円札の切断右部分をそれぞれ下へ1個づつずらしていくと…なんとビックリ!いつの間にか千円札(子供銀行券ですけどね)が1枚増えています!

 この手順を眺め・考えてみれば、「千円札の切断右部分をそれぞれ下へ1個づつずらしていく」ことで、それぞれの千円札の長さが少しづつ短くなっていること、つまり、千円札の面積が少しづつ小さくなっていることに気づくはずです。 それぞれの千円札を少しづつ小さく/切り詰めて、その切り詰めた部分で新たな千円札を1枚作り出す…というわけです。 単純に言ってしまえば、もしも、紙幣の長さが10センチメートルであったなら、紙幣の長さを9.5センチメートルに切断してしまえば、残った5mmの紙幣のカケラを19枚集め・貼り合わせれば、新しくもう1枚の9.5センチメートルの長さの紙幣が生み出される、というような仕組みです。

 もちろん、こんな原始的な方法で作られた偽札はすぐ見破られてしまいます。 何しろ、右上の写真は「36枚の千円札から37枚を作り出す」という実験ですが、写真をよくよく眺めてみれば、千円札を小さく切り詰め過ぎて、「1000円札」が「100円札」になっていたりします。 この偽札を人が見たら、何かの冗談かと思うかもしれないような、できの悪さです。 しかも、それだけ完成度が低いにも関わらず、「36枚が37枚に増える」ということは、(工作の苦労は多い割に)たった2パーセントの増率でしかない、というかなりマヌケなテクニックです。

 「紙幣を切断して増やす」のは「偽札作り」として、もちろん禁止されています。 しかし、紙幣が破れたり・破損してしまったりすることがあります。 たとえば、紙幣をポケットに入れたまま洗濯してしまい、紙幣がやぶれてしまった…なんていうこともあるはずです。 そんな時は、一体どうすればいいのでしょうか?

 紙幣が破損した時には、その紙幣を銀行に持って行けば、残っている紙幣の面積にしたがった金額と交換することができます。 その残っている紙幣の面積にしたがった引き替え額は、次のように決められています。

  • 2/3以上:全額
  • 2/3未満2/5以上:半額
  • 2/5未満:ゼロ円(失効)
 また、ここでいう「紙幣の面積」というのは、「同じ一枚の紙幣の一部」と認められる限りにおいて、複数片を合わせた合計の面積で良い、とされています。 ということは、シュレッダーなどで切り刻んでしまった紙幣でも、裁断された破片を集めてくっつけてやれば、(それが同一の紙幣を復元したものだと認められれば)ちゃんとお金と引き替えることができるのです。

 交換基準の2/3と2/5という2つの数字は、もちろん、意味なく決められているものではありません。 全額交換の2/3と半額交換の2/5は、それぞれ6/15と10/15であり、「1枚の紙幣すなわち15/15から全額交換相当の10/15を引くと5/10になり、それは必ず半額交換相当の6/15を下回る」…つまり、全額交換した上にさらに半額交換されることはない、というように決められているのです。 紙幣が破損して困っている人を可能な限り助けつつ、紙幣を切るだけでお金を増やす…なんてことができないように、と考えられているわけです。

 さて、ここで復習問題です。 上のような交換基準を踏まえて、冒頭で作った「切断千円札」銀行に持ち込んだとしたら、元は36枚の千円札は一体「何枚」になるでしょうか?

  1. もちろん、元と同じ36枚でしょう?
  2. 見た目通りの37枚!
  3. 逮捕状1枚…