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 「夕日が(今日の”日直”の名前が書かれた)教室の黒板を照らす」という風景は、マンガなどでよく描かれそうなノスタルジックな景色です。 …しかし、そんな「夕日に照らされた黒板」は、現実には(あまり)存在しない風景です。 なぜなら、学校の(多くの)教室は、黒板に夕日が当たることがない向きに作られていることが多いからです。

 100年以上前の明治28年、当時の文部省が「学校建築図説明及設計大要」というものを発行しました。 これは、学校を作る際には「こういう風に作りなさい」という指導書です。 この「学校建築図説明及設計大要」では、(特殊な教室でない)普通教室について、次のように「教室・窓の向き」が決められています。

 教室ノ形状ハ長方形トシ室ノ方法ハ南又ハ西南、東南トシ凡テ光線ヲ生徒ノ左側ヨリ採ルヲ要ス。

わかりやすく書けば、「教室は長方形で、おおよそ南(西南〜東南)に窓が向くようにし、生徒の左側から光が入る配置になる「教室の前」にすべし、という決まりです。つまり、
  • (北半球の日本では、昼間は太陽の光が南側から差すから)太陽の光が教室を明るく照らすように南側に窓をもうける
  • 窓から差し込む光が、生徒が文字を書く右腕で遮られ(日本人の約9割が右利きなので)、生徒の手元が暗くなることがないよう、教壇は西側にもうけること
という決まりです。 日本が北半球にあって、昼に授業がある学校が多く、さらには、日本人には右利きが圧倒的に多い…ということから導かれる、これは実に論理的な建築設計指針です。

 教室を照らす「あかり」が窓から差し込む日の光だった時代、教室の窓は南向きで、黒板は教室の西側に設置されていました。だから、西の方角から差し込む夕日が「教室西側にかけられた黒板」を照らすことは、(普通は)ありえない風景でした。夕暮れが朱く染めることができたのは「教室後ろの(東側の)壁」だけだったのです。

 もちろん、今では教室を明るくするのは日の光だけでなく、電気照明も多く使われています。 だから、最近発行されている学校施設整備指針には、「教室の窓は南向きで、生徒の左側から光が入る配置にすべし」といった文言は書かれていません。 それでも、今も多くの教室の窓は南向きで・生徒の机が西を向くように作られています。

 「教室の黒板を夕日が照らす」のはマンガの中だけの話…と書くとおおげさかもしれません。 しかし、多くの場合、夕暮れの太陽が朱く染めるのは、教室の前に位置する黒板ではなく、教室の後ろの壁です。 ためしに、あなたも目を閉じて…小・中学校の夕暮れの教室を思い出してみて下さい。 赤く染まっていたのは、教室の前の大きな黒板でなく、後ろの小さな黒板ではなかったでしょうか?