雑学界の権威・平林純の考える科学

 「スーパーマン」「バットマン」「X-MEN]「超人ハルク」、いずれもアメコミを代表的する有名な作品です。 そして、どの作品も、カラフルな衣装をまとった「ヒーロー(たち)」が活躍するマンガです。 アメコミのヒーローたちを並べて・眺めてみると、何か共通する特徴が浮かび上がってくるように感じられないでしょうか?

 浮かび上がる共通の特徴を「ひとこと」で言えば、それは「共通の色を感じる」ということです。 毒々(ドクドク)しいくらい派手な色使いがされていて、登場人物達がカラフルに塗り分けられているけれど、「使われている色」が同じような色ばかりにも見える?…という印象を受けるのです。

 アメコミは、USAのマンガ(アメリカン・コミック)を指す言葉です。 アメコミの特徴のひとつは、全ページ(コマ)がフルカラーで印刷されるものが多い、ということです。 日本のコミック(マンガ)は、カラー印刷されるのは巻頭ページだけで、残りのほぼすべてのページは白黒印刷されるものがほとんどです。 しかし、アメコミは全ページフルカラーなのです。

 全ページがフルカラーで印刷されることを前提の世界では、主要登場人物を識別させやすくするために(そして読者の目を惹くために)、登場人物たちの衣装をカラフルで特徴あるパターンにしてしまえ!というテクニックが生まれます。 青い衣装に赤いマント + 黄色と赤のS字ロゴ = スーパーマン、という具合です。 白黒で印刷されることが多い日本のマンガ、すなわち(色を使った)登場人物識別テクニックが使えない世界では、「(人物の)髪型」で識別させるといったテクニックが使われたりしますが(髪型以外同じキャラって多いですよね?)、全ページ・カラー印刷のアメコミの場合には、「色」がキャラクタたちの「特徴」として活用されたわけです。

 しかし、(特に初期の)アメコミ印刷には、良質な紙が用いられるとも限りませんし、同時に印刷機の出力品位も高く安定しているとは限りませんでした。 そこで、「微妙な色・似た色」は使わないシステムが生まれました。 具体的には、カラー印刷機では、シアン・マゼンタ・イエローという3色のインクを使って「色」を出力しますが、使うインクの濃さを各色100・50・25・0パーセントの4レベル(*1)に限る、というルールが生まれたのです。 「カラーインクが3色で、各色4レベル使える」ということは、全部で使うことができる色は「4*4*4=64色」を使うことができる、ということになります。 その(それぞれ結構違う色である)64色だけを使えば、少しくらい色がズレても、(似た色があるわけではないから)色の識別が問題なくできるだろう、ということです。

 こうしたことの結果、アメコミの特徴、登場人物たちが派手にカラフルに塗り分けられているけれど、「使われている色」は同じような色ばかり?という特徴が生まれるわけです。 参考までに、右に貼り付けたのが、かつて使われていた「64色のカラーチャート」です。 (色あせ・変色してしまっていますが)この64色が、アメコミの主要登場人物たちを特徴付けていた、ヒーローたちを彩り・作り上げた基本色なのです。

 さて、最後に「アメコミの色使い」を実感・納得できるように、「スーパーマン」の「色付け用原稿」を貼り付けてみることにします(from “Comics Color”)。 これは、白黒で描かれた線画に対して、色づけ(彩色)を行う人が「色指定」をした原稿です。 記号の意味は、B=シアン、R=マゼンタ、Y=イエローで(*2)、それらの後に数字が続けば、それは×10パーセントということを示します。 たとえば、YB3=イエロー100%+シアン30%ですし、YR2B2=イエロー100%+マゼンタ20%+シアン20%という具合です。 この色指定原稿を眺めると、スーパーマンの衣装は実は「青色」でなくシアン単色だった、ということにも気づかされたりします。

 日常生活の中にあるすべてのものには、それらを作り上げるため・それらを動かすための「決まり」があるものです。 今日は、アメコミの作り方に由来する「アメコミ・ヒーローの色使いルール」、すなわちアメコミヒーローたちのカラー・コーディネートに関する「キマリ」のヒミツを調査してみました。 「全ページをカラー印刷する」というマンガの大量生産システムを考えていくと、アメコミの色使いやキャラクタの衣装特徴がとても自然に納得できたりするのではないでしょうか。


*1:「マンガ学―マンガによるマンガのためのマンガ理論 」には「各色100・50・20・0パーセント」とありますが、当初は25パーセントのものが多く用いられていたようです。当初25%としたけれどドットゲインを考慮して(後に)20%にしたとか・処理上の簡易化とかそういったところに起因しているのかもしれません。
*2:シアンはブルー・マゼンタはレッドという「指定名」になっていることが、興味深い。