雑学界の権威・平林純の考える科学

 軽やかに街を歩くスカート姿の女性を見ると、そのスカートが軽やかに風に吹かれていたりすると、「風に吹かれてスカートがめくれたら大変だな!」「一体どんな場所がスカートがめくれやすい危険ポイントなのだろう?あるいは、そんな風が吹く中でも、スカートがめくれてしまう可能性の少ない安全なポイントは一体どこなんだろう?」といったくだらないけれど重要な謎について考えたくなります。…そこで、流体計算フレームワークのOpenFoamで高層ビル周りの空気流の計算サンプルを動かし、高層ビルが立つ大都会で「スカートをめくり上げてしまう風が発生しやすい場所」「スカートを上に吹き上げる風が吹きにくい安全な場所”を探してみることにしました。

 まずは、高層ビルが建つ大都市に吹く空気流を計算してみた結果が下の画像です。低い建物が建ち並ぶ街に立つ高層ビル周りに風が吹く時に、その場所に生み出されるのは「どんな流れか」ということを示す一例です。この結果を眺めてみると、高層ビル自体の壁近くでは、地上から情報に吹き上げる風の流れはほとんど生じていないように見えます。高層ビルの風下側(裏側)ではつむじ風が生じていますが、基本的に高層ビルの壁近くでは横方向に逃げる風だけで、スカートを上に巻き上げるような風が吹いているのは、高層ビル近くにある低層建物の近くです。

 よくよく考えてみれば、「高層ビル自体の壁近くでは、地上から情報に吹き上げる風の流れが生じづらい」のは当たり前です。なぜかというと、「高層ビル=鉛直方向に長いビル」ですから、高層ビル近くは「鉛直方向には等方に近い」ということになります。それは言い換えると、鉛直方向の流れは生じづらいということなので、高層ビルのすぐ近くではスカートを巻き上げてしまうような風は実は吹きづらいということになります。

 その一方で、高層ビルが流路を遮った前後に立つ低層ビル前後は、スカートを履いた女性には実に危険なポイントです。低層なので、鉛直(上)方向に(高層ビルに流路を遮られた)風が容易に逃げることができるからです。上(あるいは右)の計算結果画像で「高層ビルの風上・風下にある低層建物の壁近く」で「スカートをめくり上げてしまう風」が発生しやすいように見うけられるのも、そう考えてみると、当然至極の当たり前!ということになるわけです。

 というわけで、台風が日本列島に近づく強固の毎、スカートめくりの風が吹きやすいのは「危険地帯は高層ビル近くの低層建物」で「高層ビル脇はむしろ安全」の法則を覚えておくと良いかもしれません!?

 “青い”静脈、実は“灰色” 目の錯覚と確認 という研究報告を紹介した記事があります。研究報告の内容は「腕などで青く見えている静脈の色は実際は灰色なんだけど、周りの肌の色と比較すると青いので、相対的に青く見える」というものです。人間が色を認識する時には(測定機器でも同様ですが)、眺める領域の周囲を基準にした色の認知を行うことで、色の恒常性を得たり(照明光の補正を行ったり)します。だから、肌の上から見た静脈が周囲の肌より「青く」見えれば、静脈は青く見えるわけです。

 …しかし、そもそも「赤い血」が流れてるはずの静脈がなぜ「青く」見えるのでしょう?青い静脈(専門用語では”blue pipe”)に流れているのは赤い血のはずで、皮膚の上から見たとき、皮膚の色に静脈の色が重なって見えるとしたら、「皮膚の上から見た静脈部分」は周りの皮膚よりも赤く見えそうです。そうだったとするならば、静脈は周りの皮膚より「赤く」見えそうなものです。…一体、どうして「赤い血」が流れてるはずの静脈が「青く」見えるのでしょうか?

 赤い血が流れているはずの血管が青く見える理由は、「青筋を立てる」という言葉で表されるように、皮膚上から見た血管は(周りの色と比べると)青色に見えます。動脈は比較的体の奥にあるので、肌表面に近い部分にある血管の多くは静脈です。動脈中の血液に含まれる(酸素と結合した)酸化ヘモグロビンほどは赤くないですが、酸素を供給した後に静脈を流れる血液中の(酸素と結合していない)還元ヘモグロビンは暗赤色になります。たとえば、右写真 – wisdom96.exblog.jp – は、左が還元ヘモグロビンで、右が酸化ヘモグロビンです。ヘモグロビンは還元されて酸素を手放すと、かなり暗い赤色に変わります。…けれど、やはり「赤い」ことには変わりがありません。

「皮膚部分の色は、主に皮膚にに含まれるメラニンと毛細血管に含まれるヘモグロビンで決まります。一方、静脈自体の色は還元ヘモグロビンの色で決まります。静脈は「皮膚の下にある」わけですから、皮膚の上から見た静脈の色は、単純に考えると「皮膚と還元ヘモグロビンの色(吸収)スペクトルの掛け合わせ」のような具合にになりそうに思われるでしょう。だとすると、静脈部分は近傍より(近傍を基準として)赤く見えそうなのに、静脈部分が、なぜ相対的に「青く」見えるのか?と不思議に感じられるのではないでしょうか。

 赤い血が流れる静脈が(静脈が無い周囲の部分よりも)青く見える理由は、皮膚の中に入った光の動きを計算してみるとわかります。下画像は、白色光が皮膚表面から体内に入射してきた際、光の色(波長)ごとにどのような違いがあるかを、たとえば、赤色光と青色光の軌跡例で図示してみたものです*。皮膚上部から皮膚内に入射した白色光があったとき(図示されてる白線です)、その中に含まれる青色の光は皮膚内で(短波長の光は散乱しやすいので)すぐに散乱して(方向を変え続け)、すぐに皮膚表面から皮膚の外へ出て行ってしまいます(ランダムウォークの激しい例ですね)。

 その一方、赤色の光は(比較的散乱もしにくく、メラニンや皮膚内の毛細血管中のヘモグロビンによる色吸収も少ないため)皮膚内奥部まで侵入し、皮膚の内奥部を長くさまよってから(ようやく)皮膚の外へ出ていきます。ちょうど、透き通ったものの中では遠くまで見渡すことができるのと同じように、かなり奥まで赤色光は届きます。かなり奥までさまよった後に、赤色光は皮膚の外へまた出てくるわけです。

 このように「青色光は皮膚内部にはほとんど侵入しない」ので、皮膚表面から1ミリ程度離れた内奥部にある太い静脈部分までは、実はあまり届きません。だから、皮膚の下に静脈があろうとなかろうと、同じくらいの強さの(青色の)光が返ってきます。
 けれど、波長が長い赤色光は皮膚奥部まで侵入します。ということは、皮膚下部に静脈が流れる部分では、赤色光は静脈に到達して(還元ヘモグロビンが暗赤色であるといっても、赤色は多少なりとも吸収されますから)静脈中で赤色光の量はある程度減衰してしまいます。そうして、赤色光の強さが弱まった後、ようやく赤色光は皮膚表面から外へと出てくるわけです。
 その結果、「皮膚下部に静脈がある箇所の色」と「周囲の皮膚部分の色」を比べると、「皮膚下部に静脈がある箇所の色」は(周囲に比べると)青色光の強さは他の部分と同じくらい強く返ってくるのに、赤色の光は周囲よりも少ない量しか返ってこない…というわけで、「(近傍周囲と比較すると)皮膚の上から見た静脈が青色がかる」ということになります。ちなみに、実際に実験してみたようすが『肌色絵の具と赤ボールペンで、「赤い血が流れる静脈が青く見える理由を実感してみよう!』にありますので、こちらも参考にすると面白いと思います。

 というわけで、納得したい人向けの、「赤い血」が流れてるはずの静脈が「青く」見える理由を書いてみました。…ちなみに、赤色光よりさらに波長が長い近赤外線で皮膚を眺めてみると、右画像のように、(可視光ではぼんやりとしか見えなくても)皮膚内部にある静脈が(黒く浮き出て)まるわかり!に見えます。こうした静脈パターンは人それぞれ違うので、人の認証システムに使われたりします。皮膚に入ったらすぐに散乱して外に出てしまう青色の光では、こんな風に皮膚内部の血管を自由に眺めることはできないわけですね。

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*計算・図示には、Mathematicaで作成されたモンテカルロ法の色計算ライブラリを用いています。

 尿意をガマンした後に、トイレに行ってようやく立ちションした瞬間、体がブルブルッと震える経験は、誰しもあると思います。「立ちションなんてしたことない!」という女性の方はそんな感覚は未体験かもしれません。しかし、多くの男性は、そんな感覚を馴染み深いことでしょう。

 この「立ちション後に体がブルッと震える現象」について、その原因として「おっしことして熱エネルギーを放出する」ことが挙げられたりします。おしっこをすると周りの気温に比べて温度が高い尿を体外に放出することになるので、失った分の熱エネルギーを補充しなければならず、体温が下がってしまう、という説明です。…しかし、少し考えてみると、この説明はかなり「変で筋が通らない」ことがわかります。まず、膀胱から尿を排出したとしても、(そのこと自体からは)熱をどこかに補給する必要はありません。

 人間の体の中は約37度に保たれています。この温度は中枢温とか深部温と呼ばれ、膀胱中の尿の温度もその温度になっています。もちろん、尿自体が自己発熱するわけはないので、膀胱周りが約37度になっていて(そこから熱が伝わることで)尿も約37度になっているというわけです。膀胱の周りも、その中にある尿も、ぜ〜んぶ等しく約37度の世界です。

 それでは、おしっこをして膀胱の中から尿が排出されたとしたら、「ぜ〜んぶ等しく約37度の世界」には一体何が起こるでしょうか?膀胱の中から(一回あたり400ml程度の)約37度の尿が姿を消し、約37度の膀胱は排出された尿の体積分だけ縮むことになります。…けれど、そこに残っているのは、やはり等しく約37度の膀胱だけです。その辺りにある温度が全て同じなら、熱は(高い方から低い方へと流れていく熱は)どこにも移動していきません。つまり、膀胱から尿が排出されたとしても、膀胱や体内から熱を何処かに供給しなければいけないことにはならないのです。だから、立ちションをした後に体がブルブルッと震えるのは「おっしことして熱エネルギーを放出する」からだという説明は、全く筋が通っていないわけです。

 それでは本当の理由は一体何かというと…、実はその理由は未だ明らかにされていないのです。おしっこをガマンしている時には交感神経の作用により、膀胱を包む筋肉は緩み、それとは逆に尿道の筋肉は締まっています。しかし、おしっこを始める直前から、副交感神経が卓越し、尿道の筋肉が緩み、膀胱を包む筋肉が締まるのです。立ちション後に体がブルッと震える現象は、こうした自律神経の制御に関連しているのではないかと考えられていますが、その発生過程は現代の科学でも未だ明らかにされてはいないのです。

 この排尿後に体がブルッと震える現象は”Post-micturition convulsion syndrome” とか “pee shivers” と呼ばれます。男性は83パーセント近くが立ちション時にブルブルッときた経験があるけれど、座っておしっこをするときには53パーセントの男性しかブルブルッときた経験が無いというアンケート結果や、女性はおしっこブルブルッ経験がほぼ無い(かなりガマンした場合に体験したことがある)といったアンケート結果もあります。立ちション後に体がブルッと震える本当の原因は、こうした状況・性差(単に立ちションの有無かもしれませんが)下での違いを説明することができることのはずです。

 交感神経から副交感神経へと卓越する制御が切り替わると何が起こるのでしょう?副交感神経が卓越すると、毛細血管に流れる血液量が大幅に増え、体表面と体内深部の温度循環が激しくなったりもしますから、熱収支的にも何かが起こっても不思議ではなありません。あるいは、そんなこと以前に、そういった自律神経の制御切り替わり過程では、体が意図しない感覚・動きをしても、全く不思議ではないようにも思われます。

 あなたは「立ちション後に体がブルッと震える」経験があるでしょうか?その経験をするのは立ちション時?それとも、座りション時?…そして、そんな現象を起こす発生過程はどんなものだと思いますか?*

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*私が実験してみた結果では、立ちション時に下腹部の体表面温度は(非接触温度計で計測してみても)ほぼ変わらず、また、実際に排尿される直前からある種の不思議な感覚を受け、排尿を終え通常動作に復帰する瞬間に、ブルブルッと感じるようでした。