便意を催してトイレに入り、そして大きな”ひと仕事”をし終えた後、大便があまりに大きくて「この大便、流れなかったらどうしよう?」と心配になったことはないでしょうか?特に、サイホン式の洋式便器で用を足した時など、曲がりくねる排水管の中を大便がきちんと通過してくれるか、不安になったりすることがないでしょうか?
…そんな心配をしたくなった時のために、知っておくと良い決まりがあります。日本において、便器が満たしていなければならない「決まり」が書かれているJISA5207(衛生器具-便器・洗面器類)には、次のように定められています。
1. 適用範囲
この規格は,主に建築物で使用する衛生器具のうち,便器・洗面器類(大便器,小便器,洗面器,手洗器,洗浄用タンク及び掃除流し)(以下,器具という。)について規定する。
8.2.3 排出試験
幼児用を除く大便器は直径 44 mm 以上(中略)の変形のない球を排水路に投入し,トラップ内を通過させ,便器外に排出されるかどうかを調べる。
直径 44 mm くらいの大便であれば、たとえ超カタい無変形大便だったとしても、大便器(洋式サイホン便器)がこのJISA5207に従っている限りは、その超ビッグな堅い大便を流しきる性能を便器はちゃんと持っています。
そして、日本人に限らず、体格が大きな西洋人でも肛門が開くことができる最大サイズは、およそ直径35mmほどです。それ以上に大きな便をしようとすると、肛門周辺に負担がかかり、痔になってしまいます。逆に言えば、健康を損なわない大きさの”直径35mm以下の”大便である限りは、その大便を便器はきちんと流しきってくれる、というわけです。
The aperture of the relaxed anal canal in adult human is 35 mm (1.4″) slightly larger than an American quarter ($0.25 coin). If your stools become larger than that, you need to strain to expel them.
HEMORRHOIDS AND ANAL FISSURES: WHAT NATURE GIVETH, NEWTON’S LAW TAKETH
というわけで、あなたが痔になるくらいの超ビッグな大便を産み落としたのでない限りは、「この大便、流れなかったらどうしよう?」と心配する必要はないのです。
ちなみに、超ビッグな大便でなく、ウサギの糞のような数多くの小さく堅い大便でも大丈夫です。そんなコロコロ便たちのために、JISA5207 にはこんな決まりもあるからです。あなたが、100個のコロコロ大便を出したとしても、15個くらいは残るかもしれないけれど(ん?マズイ?)、85パーセント以上は流しきってくれるのです。
5.1 洗浄性能
洋風便器においては,(中略)代用汚物 B が 85 個以上便器外に排出されなければならない。
代用汚物 B 直径が約 19 mm,比重 0.85∼0.95 の樹脂の球 100 個を使用する,又はそれと同等以上のものを代用汚物 B として用いてもよい。
さらにJISA5207(衛生器具-便器・洗面器類)を読んでいくと、「代用汚物 A 長さ約 760 mm に切った試験用紙を直径が約 50 mm∼75 mm の球状に緩く丸めたものを 7 個使用する」とか書いてあり、それはトイレットペーパーを模したものだろうか?とか、お尻を拭いたトイレットペーパーは50 mm∼75 mm の球状になるんだろうか?とか、丸めたものを 7 個っていうのは”人は7回くらいトイレットペーパーをカラカラ回しお尻を拭いて丸めて流す”ノだろうか?とか…実に興味深く楽しめます。
便器で流すことができる大便の大きさとか、代用汚物とか、肛門(括約筋)の最大サイズとか…無味乾燥に思える「決まり」も、眺めてみると実は結構面白い!のです。
息子のDNA鑑定をしたら「父子確率ゼロ」と判定され、息子の父親は自分ではなかったと判明した…という芸能記事が、昨年テレビや雑誌を賑わせていました。
マンガ「サザエさん」を読んでいると、サザエさんのカツオに対する態度はまるでお母さんのようだ!と思うことがありました。磯野家の長女サザエも長男カツオも、磯野波平と磯野フネのこどものはずなのに、サザエはカツオの母のように思えることもあったりするのです。
そんな時、「…も・もしかしたら、カツオは本当にサザエの息子なんじゃないか!?」というトンデモない想像が頭をよぎります。
サザエが誰かと愛を育んで、そして人知れず生まれたのがカツオだったのではないか!?などという想像を巡らせてしまったりすることがあります。
もちろん、そんな想像が合ってるのか・間違っているのかは、DNA鑑定すれば一発でわかるはずです。しかし、こんな想像もしたりします。もし、サザエさんが愛し合った相手が磯野波平の双子(しかもどうみても一卵性双生児)の兄弟である磯野海平だったりしたら、DNA鑑定では区別することができなかったりしないでしょうか…?
つまり、「カツオの父親は磯野波平で、母親は磯野フネと考えられる」という鑑定結果が出ても、実はそれは「磯野海平とサザエのDNAだった!」ということがありうるものでしょうか?
そういうことが起こりうるのは、たとえばカツオの母親をミトコンドリアDNAで判定し、カツオの父親をY染色体で判定したような場合です。なぜかというと、ミトコンドリアDNAは母からのみ受け継ぐので、磯野カツオがフネの息子でも(フネの娘である)サザエの息子であっても、全く同じ(磯野フネの)DNAを受け継ぐことになります。もちろん、カツオが父親から受け継いだY染色体を調べてみても、磯野波平と磯野海平のY染色体は全く同じなので、カツオの父親が波平なのか海平なのか判別することができない、というわけです。
しかし、実際には、カツオが磯野サザエと海平の息子であったとしたら、カツオが「フネと波平の息子ではない」ということを、かなりの確率で判定することができます。DNA鑑定でよく用いられるSTR法は、父母ともから受け継いだ染色体十数個に対して特徴判定を行っているからです。それは、およそ次のような理屈になります。
まず、フネの持つ遺伝子特徴をフネA・フネBとして、波平の遺伝子特徴(=海平の遺伝子特徴)を波平A・波平Bとすることにしましょう。
すると、カツオがフネと波平の息子であった場合、カツオが持つ可能性のある遺伝子特徴は「フネA(もしくはB)+波平A(もしくはB)」になります。しかし、カツオがサザエと海平の息子であった場合、カツオが持つ可能性のある遺伝子特徴は「フネA(もしくはB)+波平A(もしくはB)」になることもあれば、「波平A(もしくはB)+波平A(もしくはB)」になることもあります。その可能性は、フィフティ・フィフティです。つまり、1/2の確率で、カツオが持つ遺伝子特徴が「フネと波平の息子ではありえない」組み合わせになってしまいます。そして、そうした特徴判定を染色体十数個に対して行ったなら、カツオが「サザエと海平の息子」なのに、遺伝子特徴が「フネと波平の息子の場合」と一致する可能性は、(1/2)の十数乗もの少ない確率しかありえない…ということになるわけです。
というわけで、ご安心下さい。
カツオが実は磯野海平とサザエの息子だったとしても、その事実はDNA鑑定で簡単に明らかにすることができるようです。
といっても、そんな心配をしたことがある人は、とても少ないかもしれませんが…。
韓国内で消息不明となった内閣府職員が、北九州市の海岸近くでゴムボート内で遺体として発見された、というニュースが世間を賑わせています。釜山市で購入したゴムボートで日本への渡航をしようとしたのではないかとか、亡くなった状態でゴムボートに乗って冬の日本海を北九州市まで辿り着くはずがない、といった推測や疑問が渦巻く不思議な話です。今回は「もしも、ゴムボートに乗って釜山近郊から対馬海峡へと向かったら、ゴムボートはどこに辿り着くか」を考えてみることにします。
対馬海峡に流れる海流は、基本的には東シナ海から日本海へと流れています。たとえば、左下の図は海洋大循環モデル(RIAMOM)による2014年1月10日の(海流の)平均速度です。対馬海峡のあたりでは、(対馬が流路を狭めることで、海峡が狭まった部分では海流の速度を速くなり)およそ秒速 50cm(時速1.8km)ほどで南西から北東に向かって流れていることがわかります(対馬海峡表層海況監視海洋レーダーシステムのデータも参考になります)。だから、ゴムボートが釜山近郊から対馬海峡の波間に漂い始めたならば、辿り着くのは、島根県あたりの海岸に思えます。
しかし、ゴムボートを動かす力は海流だけではありません。海面に浮かぶゴムボートは、海上に吹く風からの力も多く受けます。ゴムボートは構造的に海面上に(水面下よりもずっと)大きな体積を占めますから、実際のところ、ゴムボートが水面を漂う時には、流れる風の影響が非常に大きくなりそうです。
そこで、たとえば、2014年1月10日の海洋大循環モデル(RIAMOM)による平均風速・向きを眺めてみると、右下図のようになり、北西から南南東に向かって、平均的には10 m/s (時速36km)近い強い風が吹いています。風が強かった1月10日ほどでなくても、この時期は平均的に5~10 m/s (時速18~36km)ほどの風が対馬海峡上に吹いています。
そこで、こうした時々刻々の海流や風の向きや強さ、そしてゴムボートの形や大きさをもとにした大雑把な(風がゴムボートに与える影響の)見積もりをもとにして、ゴムボートが1月10日に釜山近郊を出発したら、そしてゴムボートに積まれたモーターが海に出てすぐに動かなくなったとしたら、一体どこに辿り着くかをシミュレーション計算してみました。その結果が下の図です。
この地図上に描かれた矢印一本分は「24時間分のゴムボートの動き」です。釜山を出たゴムボートは潮の流れや風に押されて、およそ7日ほどで、まさに北九州市近くに辿り着いています。喫水がとても浅くて・底面も平らなため、海流の流れの影響を受けづらく、けれど海面上に大きな体積を占めることで風に押されてしまうゴムボートの場合には、この時期に釜山から対馬海峡に出ると北九州市に辿り着く、というのが「意外だけれども実は自然なこと」だったりするのかもしれません。
今回は、時々刻々の海洋環境の中で「ゴムボートが釜山近郊から出航したら、ゴムボートがどのように動いていくか」をシミュレーション計算してみました。それと同じように、時々刻々の海洋環境の中で「北九州市に辿り着いたゴムボートは(時間を遡っていけば)一体どういう方向から・何時どんな場所から出航したかを逆に辿ることもできます(精度はさておき)。
…今頃、どこかの研究所にシミュレーション計算の依頼がされていて、詳細なデータをもとにスパコンがガシガシ回されて、
この奇妙不可思議な話の謎が解き明かされているのかも!?