雑学界の権威・平林純の考える科学

 コーラや醤油は、おそらく、多くの人の台所にあると思います。台所の調味料入れに醤油瓶が並んでいたり、あるいは、冷蔵庫のドアを開ければコーラが入っていたりするものです。そんな、どこの家にもあるコーラも醤油は、見た目は「黒く不透明な液体」です。コーラや醤油を透明なガラスコップに入れてみれば、ガラスコップの向こう側は、コップの中にある醤油やコーラに遮られて、見ることができません。

 たとえば、右の写真は、コーラをグラスに入れてみたところを撮影したものです。…やはり、グラスの向こう側はコーラに遮られて、全く見ることができません。しかし、実は、私たちが目で見ることができる光(=可視光)で黒く見えるコーラや醤油も、赤外線で眺めると、とても透明な姿に変わります。

 2枚目の写真は、同じグラスを、赤外線で撮影してみたものです。グラスに入っているコーラが驚くほど透明で、グラスの向こう側が、本当に綺麗に透けて見えることがわかります。「透明なクリアコーラタブクリア」が発売されたこともありますが、わざわざ特別なコーラを作らずとも、普通の(可視光では)真っ黒に見えるコーラも、赤外線の目で眺めて見さえすれば、クリアな透明コーラに変身するのです。

 こんな風に、可視光では色が濃く・不透明なものも、赤外線で眺めてみると色が消え・透明に見えるモノが意外に多かったりします。もちろん、私たちが目にすることができる可視光を遮るのと同じように赤外線も遮り、赤外線でも不透明になるものもあります。その逆に、可視光では透けて見えるのに、赤外線では不透明に見えてしまうものもあります(参考:赤外線で体中の血管を浮かび上がらせてみよう!)。

 ケータイやスマートホンなどでも工夫をすると、赤外線で眺めた風景を撮影できたりします(参考:iPhone 4を「赤外線カメラ」にする「裏」技テクニック)。可視光で見える風景と、赤外線が映る目で見える景色とを見比べてみれば、想像とは全然違う姿が見えてきたりして、とても面白いかもしれませんね。

 「歩くべき or 走るべき?の境界線」は時速8kmだ!で、「人が歩いたり走ったりする時の、移動速度(km/h)と体重あたり酸素消費量(ml / kg / min)」データを眺め、時速8km程度までは歩く方が楽だけど、それより速く移動しようとすると走った方が良い!という「”歩く”と”走る”の境界線」を学びました。…今回は、「歩く」と「走る」の境目を、別の視点、簡単な物理モデルを使った解析解から考えてみようと思います。

 歩く時の人の動きを考えてみると、(右に貼り付けた図のように)人の腰は上下動を繰り返します。そして、腰が描く軌跡は「足を半径とする円弧を連ねた形」です。片足だけが地面に着いてる間は、その片足を半径として描かれる円弧に沿って腰が動き、もう一方の足が地面に着いた瞬間に、足を着いたことで大きく衝撃を受け・体の動きが変わり・(その足を半径として)次の円弧に沿って体は動いていきます。

 この(歩いている)人に働く力・加速度を考えてみると、まず足を着いた瞬間には下から突き上げる力・加速度を受け、それまで下向きに動いてた体の動きが、上向きへと方向を変えます。そして、それ以降の円弧状の動きをする時には、体は遠心力を受けることになります。ちなみに、腰の高さが一番高くなっている瞬間は、「人が進む方向」と「円弧状での向き」が一致するので、 体が受ける遠心力の加速度は(上向きに)「歩く速さの2乗 / 足の長さ」になります。

 そこで、この式を使って、およそ足の長さが80cmくらいだとして、「歩く速さ」に応じて「(歩行中に人が受ける)上向き加速度の最大値」をプロットしてみると、右のグラフのようになります。単純に言ってしまえば、歩く(進む)速さが速くなれば、それに応じて上向き最大加速度も大きくなるということですが、実はもっと興味深いことが見てとれます。それは、進む速さが時速10km程度になると、上向き最大加速度が「(私たちを地面に縛り付けている)重力加速度=9.8m/s^2」よりも大きくなってしまう!ということです。…つまり、私たちが時速10km程度で歩こうとしても、足が伸びきった瞬間に私たちの体は浮かび上がってしまう=走り出してしまう、ということがわかります。体のサイズ等で多少前後しますが、時速10km程度になると、”歩くという動き”が自然にはできなくなってしまうのです。

 すると、以前の話、時速8km程度までは歩く方が楽だけど、それより速く移動しようとすると走った方が良い!という「”歩く”と”走る”の境界線」が実に納得できます。その程度の速さまでは「歩く」ということができるけれど、もっと速く走ろうとすると「自然には不可能だから、少し無理のある動き・工夫した動き」をしなければならなくて、そのため「歩く」より(自然にまかせて、体を浮かび上がらせて)「走る」方が楽になる…という理屈だと考えると、とても自然に納得できます。

 もしも「歩くべきか、それとも、走るべきか…?」と優柔不断なハムレットが悩んでいたとしたら、「それはキミ、歩くと走るの境界線は時速8〜10kmだよ。もし、キミの足が普通よりずいぶん短ければ、たとえばドラえもん的に短ければ、もっと遅い速さでも走らないとダメだけどね!」と教えてあげれば良いわけです。

 グリコ キャラメルと言えば「1粒300メートル!」のコピーで有名です。このコピーは、キャラメル1粒(約3.8グラム)に含まれるエネルギーである16キロカロリーは、「300メートルを走るのに必要なエネルギー」に相当することを意味したものです。

 グリコ(キャラメル) には、実際に一粒で300メートル走ることのできるエネルギーが含まれています。グリコ 一粒は16 kcalです。身長165cm、体重55kgの人が分速160mで走ると、1分間に使うエネルギーは8.21kcalになります。つまりグリコ一粒で1.95 分、約300m走れることになります。

グリコ 「一粒300メートル」とはなんですか?

 グリコキャラメルには「1粒300メートル」のエネルギーが詰まっているわけですが、「エネルギーがたくさん詰まっていそうなモノ」を他に思い浮かべてみると、たとえば爆発力バツグンなTNT(トリニトロトルエン)火薬なんかが思い浮かびます。…そこで、今回は、TNT火薬が持つエネルギーとグリコキャラメル等の飲食物エネルギーの量で「どれだけ走ることができるかの競争」をしてみることにします(世界陸上の季節ですしね!)。

 「エネルギーで比べる世界陸上選手権」に、次のようなグリコキャラメル含む6選手をノミネートして、含まれるエネルギー(カロリー)で「身長165cm、体重55kgの人が分速160mで走ると…何メートル走ることができるか」を競争させてみることにします。

  1. ■ 現世界王者:グリコキャラメル1粒(記録300メートル)
  2. ■ 明治製菓 きのこの山1本
  3. ■ ロッテ パイの実1個
  4. ■ マカダミアナッツ(1粒)
  5. ■ リポビタンD( 1 / 10本)
  6. ■ 最強!?挑戦者:TNT火薬(1グラム)

 まず「基準」となるグリコキャラメルは、1粒(3.8グラム)16キロカロリーでおよそ312メートル走り抜くことができる計算になります。そして、きのこの山1本は約15キロカロリーで292メートルです。そして、パイの実1個は22キロカロリーで429メートルです。ちなみに、きのこの山もパイの実もグラムあたりにすると、どちらも5.5キロカロリーほどになります(チョコやクッキーは大体このくらいの重量あたりカロリーです)。

 マカダミアナッツは1粒(約2グラム)だと15キロカロリーくらいになりますから、292メートル走ることができます。そして、リポビタンDは1本74キロカロリーなので、1口くらいに相当する1/10本だと144メートルの計算です。

 そして、最強!?挑戦者なTNT火薬は1グラムあたり1キロカロリーのエネルギーを含むので、計算してみるとTNT火薬1グラムで走ることができる距離は19メートル…という計算になります。というわけで、飲食物とTNT火薬で「走ることができる距離」を比較してみた結果は以下の通りです。

  1. ■ 現世界王者:グリコキャラメル1粒:312メートル
  2. ■ ロッテ パイの実1個:429メートル
  3. ■ 明治製菓 きのこの山1本:292メートル
  4. ■ マカダミアナッツ(1粒):292メートル
  5. ■ リポビタンD(1本):144メートル
  6. ■ 最強!?挑戦者:TNT火薬(1グラム):19メートル

 実は、飲食物(特に菓子類)に含まれているエネルギーは、TNT火薬に含まれているエネルギーよりもずっと高いのです。たとえば、1グラムあたりに含まれているエネルギーを比べると、マカデミアナッツが約7キロカロリー、チョコ類が6キロカロリー、グリコキャラメルで4キロカロリーで、TNT火薬の(1グラムあたり)1キロカロリーに比べると、何倍も駄菓子類の方が高エネルギーなのです。

 だから、グリコ1粒300メートルの要領でTNT火薬1グラムで走ることができる距離を計算してみると、実は20メートルも走れない!?という結果になるのです。キャラメル1粒と同じ3.8グラムで計算したとしても74メートルですから、TNT火薬とグリコキャラメルが陸上競技場で対決すると…グリコキャラメルの圧勝!という結果になりそうですね。