雑学界の権威・平林純の考える科学

 一万円札には、古くは聖徳太子、1984年からは福沢諭吉の肖像画が描かれています。 現在発行されている一万円札(平成十六年十一月一日から発行を開始する日本銀行券壱万円、 五千円及び千円の様式を定める件で定められています)には、和服姿に(叩くと文明開化の音がしそうな)洋風髪型の福沢諭吉が描かれています。この一万円札の福沢諭吉を、赤外線で眺めると、まるで「チョンマゲ頭の福沢諭吉」が見えてくることをご存じでしょうか?

 赤外線で一万円札の福沢諭吉部分を撮影してみたのが、右の写真です。…赤外線で眺めると、ふつうの(私たちが目にすることができる)可視光で眺めた福沢諭吉とは大きく異なる姿が浮かび上がってきます。散切り姿の頭頂部頭髪が消えて、まるでチョンマゲ姿のような福沢諭吉の姿が見えるのです(参考:江戸幕府時代のチョンマゲ姿の福沢諭吉)。

 これはもちろん、紙幣偽造防止のために、福沢諭吉部分には(まるで全く同じような色に見えても)実は部分毎に赤外線の吸収(透過)度合いが異なるインクが使われているからです。だから、赤外線の目で一万円札を眺めると、諭吉の(向かって)右の部分も「真っ白」に見えますし、頭頂部は(本来は洋風の散切り頭のはずなのに)チョンマゲ姿に見えてしまう、というわけです。一件ホンモノそっくりな偽一万円札を作ったとしても、赤外線で眺めれば「(極端に言うと)チョンマゲ姿じゃないから、どうみても偽札だ!」とわかってしまうわけです。

 可視光で眺める世界と、赤外線で眺める世界は、意外なほど大きく違います。私たちが手にする一万円札に描かれている福沢諭吉先生も、赤外線で眺めると、文明開化の明治時代から、江戸時代のチョンマゲ姿に装いを変えるのです!

 台風第18号が近づき、雨風が強くなっています。 遙か南方の海で生まれた台風が、数千キロメートルもの距離を移動しつつ、どんどん大きく成長していくのは不思議にも感じられます。 しかし、熱帯の海上で生まれた低気圧が「どんどん成長していく」のは、メカニズムを考えてみれば必然です。

 「湿った暖かい空気」は周囲の空気よりも密度が低くいため、上空に上昇すると同時に(上空は気圧が低いので)膨張して温度が(少し)下がります。すると、この空気に混じっていた水蒸気が凝結して水滴になり、その際に「潜熱」が生じます*。この潜熱が、さらに空気を(周りより)温め・密度を下げ、上昇気流や低気圧を加速させていきます。つまり、「暖かい湿った空気が上昇→水蒸気が水滴になり、その時発生する熱が空気を暖める→ますます上昇気流・低気圧の発生が加速する」という風になるわけです。

 …というわけで、暖かくて(暖かい水=海の上ですから)湿った空気が上昇すると、暖かく・湿った空気は、含んでいる水蒸気を雨粒に変え・熱をどんどん発生させ自らの気圧を下げて、そして成長し続けていくのです。台風を大きく成長させるエネルギー源は、「海上から運ばれた水蒸気が雨粒になる時に生じる熱エネルギー」なのです。…何だか、台風が巧妙な超大型エンジンみたいに思えてきますね。

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* その逆に、水滴が蒸発して水蒸気になる時には熱を奪います。だから、たとえば私たちが汗(水滴)をかいて、その汗が蒸発するときに熱を奪うため、私たちは体の温度を下げることができるのです。

 東京電力福島第1原発の原子炉建屋に地下水が流入するのを防ぐために設置する「凍土遮水壁」に国費投入という記事を読み、凍土遮水壁を維持するために、一体どのくらいお金がかかるのかを知りたくなりました。そこで、今回は、地面の中に凍った土の壁を維持するための電気料金計算をしてみようと思います。

 右上の画像は、地面の中に設置された「凍土遮水壁」周りの温度分布を(とても大雑把に)計算してみたものです。これは、地面を5m刻みで分割して、たとえば地下10mくらいの場所は定常的に15℃くらいに保たれていて…といった境界条件から、温度分布の定常状態を計算してみたものです。

 すると、「凍土遮水壁」周りでは、1m毎に温度が約1℃変わるといった状態になり、凍土の熱伝導率を(氷と同じ)2.2 (W/m・K)とすると、壁の表面積1平方メートルあたり2.2Wの熱量が凍土遮水壁から出て行くことになる…といった計算を、約1400m×600mの区画を30mの深さまでの「壁」で囲うことを前提に行うと、全体で52万8千ワットが必要になるという計算になります。そして、東京電力の従量電灯B契約を見ると、1000Whあたり20円くらいです。そこで、1000Whあたり20円の代金で、52万8千ワットが1日24時間1年365日をまかなうために必要な電気代は、1年あたり(とても大雑把に)約30億円です。

 「凍土遮水壁」の維持費用は年間30億円、10年で300億円ナリ…。この金額、あなたなら安いと考えるでしょうか?それとも高いと感じるでしょうか?