雑学界の権威・平林純の考える科学

 「何人が集まれば、同じ誕生日の人(たち)がいる確率が50%を超えるか?」という問題があります。 計算すると、その答えは「23人」となり、意外に少ない人数でも「同じ誕生日の人たちがいる確率が高い」ので、誕生日のパラドックスと言われたりします。計算自体は、

同じ誕生日の人たちがいる確率=1-同じ誕生日の人たちがいない確率


なので、「同じ誕生日の人たちがいない確率」を誕生日が重ならない条件と考えれば、たとえば23人であれば

    =1 – 364/365 × 363/365 × 362/365 …× (365-23 + 1) / 365
    =0.50729723432398540723…


と計算することができて、その確率は50パーセントを超えるというわけです(詳しくはたとえばこちら)。

 ところで、戦前の日本の月別出生率を眺めると、誕生日が1〜3月に集中していたことがわかります。たとえば、「1899年から2000年までの月別出生率」を見ると、「1月・2月・3月の出生率が他の月の1.5倍くらい高く」「一番出生率が少ない6月と比べると、1〜3月は2倍ほど高い」という具合になっています。(データが途切れてる箇所が太平洋戦争時です)

 さて問題です。このような誕生日が1〜3月の時期に集中していた戦前の日本で「誕生日のパラドックス」を考えてみると、つまり「何人が集まれば、同じ誕生日の人(たち)がいる確率が50%を超えるか?」を考えてみると、一体どんな答が出てくるでしょう?…真夏の夜に挑戦するのに丁度良い面白いパズルだと思いませんか?直感的には、何人いれば同じ誕生日の人たちがいる確率が50%を超えると思いますか?

 何年も前、深夜TV番組ロケで、大きな送風機を抱えて、スカート姿に風をあてて、スカートがめくれやすい条件を調べる実験をしたことがあります。さまざまな種類のスカートに、(手で持った送風機で)さまざまな風のあて方をする…という実験を延々2時間以上しましたが、スカートを風でまくり上げるのは意外なほど難しいものでした。

 しかし、送風機の風でスカートをまくり上げるのが難しかったのは、風を横からあてていたからで、スカートの下から強風を送れば、もちろん一瞬でスカートは吹き上げられてしまいます。それはつまり、「下から風が吹くような場所」ではスカートが風でめくれやすい、ということです。スカートは、種類によって違いますが、およそ100〜350グラム程度の重さです。そんな重さのスカートを持ち上げることができる程度の風が、スカートの下方向から吹けば、風によってスカートはめくれあがってしまうことになります。

 「下方向から風が吹く」場所として、地下鉄駅のホームに降りるエスカレータがあります。地下鉄のホームに列車が近づいてくる時には、駅に近づいてくる列車が空気を圧縮し・ホーム近くの気圧を高めるため、ホーム側から(上部フロアに向かう)階段・エスカレータ通路で、上部フロアに向かう風が吹きます(参考:地下鉄の風)。この「列車風」と呼ばれる風は、条件によって異なりますが、たとえば風速5m/s程度になることがあります。それでは、スカートの下方向から吹く風速 5m/s の風がスカートをめくり上げることができるのでしょうか?

 非粘性流体のエネルギー保存則であるベルヌーイの定理を使うと、スカート下部から吹く風が「スカートを持ち上げようとする力」は、

空気の密度 × スカートに下部から風が吹き込む面積 × 風速 × 風速 / 2

で見積もることができます。空気の密度を1.13(kg/m^3)として、スカートに下部から風が吹き込む面積は(ヒップ90cmの女性で見積もると)0.06(m^2)程度でしょう。そして、ホームに向かうエスカレータに吹く列車風が5(m/s)とすると、

「スカートを持ち上げようとする力」=1.13× 0.06 × 5 × 5 / 2 = 0.85 (N)

になります。0.85 (N = ニュートン)ということは、0.85 (N) / 0.98 = 0.86kg重=86グラムのものを持ち上げるのと同じ大きさの力ということですから、重さ86グラムのスカートであったなら、ホームに向かうエスカレータ通路に5m/sの列車風が吹くとスカートがめくれあがってしまう、ということになります。とはいえ、スカートの重さは、冒頭に書いたように100〜350グラム程度ですから、重さ86グラムのスカートは「素材が非常に薄く軽い特殊なスカート」ということになります。だから、普通のスカートであれば、この程度の風では、スカートがめくれる可能性は低いわけです。

 しかし、スカート女性がエスカレータを急いで電車に乗ろうと駆け下りていたりすると、話は大きく変わります。たとえば、女性がでエスカレータを駆け下りていて、下りエスカレータ速度と駆け下りる速度が加わり(下りの速度が)秒速1m程度になった場合には、この1m/sが風速(5m/s)に足し合わされることになり、

「スカートを持ち上げようとする力」=1.13 × 0.06 × (5+1) × (5+1) / 2 = 1.2 (N) = 0.12 kg重

となり、重さ120グラム程度の(結して珍しくはない)スカートがめくれあがってしまうようになるのです。

 ちなみに、空気の密度は「高気圧で気温が低くて湿度が低い」時に重くなります。たとえば、1気圧・気温40 ℃・湿度0%の空気の密度は1.13 kg/m^3ですが、気温が0°まで下がると、密度は1.29 kg/m^3になります。また、気圧が5%高くなれば密度も5%高くなります。…そうした条件がすべて加わると、つまり「涼しく晴れた高気圧の温度が低い朝の地下鉄駅で、下りのエスカレータを(遅刻をしまいと)ドジっ娘が駆け下りる」状況で計算すると、

「スカートを持ち上げようとする力」=1.29 × 0.06 × (5+1) × (5+1) / 2 × 1.05 = 1.5 (N) = 0.15 kg重

となり、重さ150グラム程度の平均的な薄手スカートがめくれあがってしまう!ということがわかるのです。

 さらに言えば、列車風は「上り・下りの両ホームに同時に列車が進入してきて、その列車がどちらも(その駅には止まらない)通過列車だった」という時に、最大風速を記録しそうです。ということは、駅に止まらない通過列車がある地下鉄副都心線の(大きくない)駅などが、エスカレータ通路にスカートがめくれやすい風が吹く「スカートめくれの危険スポット」ということになります。

 計算してみると色んなことがわかる!というわけで、今回は「風でめくれるスカート」を科学してみました。「涼しく晴れた朝の地下鉄駅をドジっ娘が走る」とスカートが必ずめくれる!?くらいの力が生じてしまうのです。

 ツール・ド・フランス 2013が開幕しました。6月29日〜7月21日の約3週間をかけて、山あり谷ありな約3,400kmを走り抜く、フランスで開催される自転車レースです。

 ツール・ド・フランスに関するビデオを観ていると、このレースを走り抜くために必要なエネルギー量を試算した結果が示されていました。コースが日によって違うため、もちろん日によって必要エネルギー量は変わりますが、平均6750 kcal/日でトータル141666 kcalだというのです。…今回は、この選手達が行う運動の量を「実感」してみることにします。(関連資料:小島よしおのツール・ド・フランスに挑戦!

 たとえば、昨年のツール・ド・フランスの優勝タイムは87時間34分47秒です。 この時間で、トータル141666 kcalの運動を選手たちがしたということは、選手たちの仕事率(時間あたりに行った仕事量)を計算すると1880 ワットに相当します(80W程度の基礎代謝分は含まない計算です)*。
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追記* …このトータル141666 kcalは「消費カロリー」で、最終的に選手が「自転車を走らせる」ために使われるエネルギー量ではありませんでした。

 人の身体の熱効率がどこかで抜けてるんじゃないでしょうか。今の競技用自転車には出力計なるものを装備する事が可能で、それによるとツールドフランスに出場するレベルの選手が1時間持続可能な出力は350W程度とされています。

@ma_molさん
 つまり、選手の筋肉が行った仕事の4/5くらいは「自転車を漕ぐ」ためには使われていない…ということのようです。 ———————————–

 この1880 ワットは一体どのくらいのものかというと、たとえば私たちの身の回りにあるエアコンで言うと、ちょうど40畳用くらいを冷やす能力があるエアコンが使う電力に相当します。つまり、自転車に発電機を取り付けた「自転車発電機」にツール・ド・フランス選手を乗せて、レースのごとく頑張ってペダルを回してもらえば(申し訳なくも”冷やしたい部屋”の外側で…)、40畳エアコンを動かし続けることができる、というわけです。自転車発電は、実際やってみると100Wくらいでも結構大変ですが、選手たちはその20倍近く可能…というのは何だか信じられないくらいの数字です。

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追記* …「選手たちはその20倍近く可能…というのは何だか信じられないくらいの数字」なのも当たり前で、「ツールドフランスに出場するレベルの選手が1時間持続可能な出力は350W程度」ということですから、「普通の人の6倍くらいの凄さ」ということになります。それでも、十分すごいものですね。 ———————————–

 そして、この運動を支える1日平均6750 kcal のエネルギーは、 ラーメン二郎の大ラーメン3杯分に相当します。…つまり朝昼晩の3食ともラーメン二郎でガッツリ食べなければならないくらいの運動を、ツール・ド・フランスの選手たちはしているということになります。

 朝昼晩にラーメン二郎の大を食べ、(5人いたら)40畳エアコンを動かし続けることができるツール・ド・フランス選手…凄いですね。