雑学界の権威・平林純の考える科学

 グリコ キャラメルと言えば「1粒300メートル!」のコピーで有名です。このコピーは、キャラメル1粒(約3.8グラム)に含まれるエネルギーである16キロカロリーは、「300メートルを走るのに必要なエネルギー」に相当することを意味したものです。

 グリコ(キャラメル) には、実際に一粒で300メートル走ることのできるエネルギーが含まれています。グリコ 一粒は16 kcalです。身長165cm、体重55kgの人が分速160mで走ると、1分間に使うエネルギーは8.21kcalになります。つまりグリコ一粒で1.95 分、約300m走れることになります。

グリコ 「一粒300メートル」とはなんですか?

 グリコキャラメルには「1粒300メートル」のエネルギーが詰まっているわけですが、「エネルギーがたくさん詰まっていそうなモノ」を他に思い浮かべてみると、たとえば爆発力バツグンなTNT(トリニトロトルエン)火薬なんかが思い浮かびます。…そこで、今回は、TNT火薬が持つエネルギーとグリコキャラメル等の飲食物エネルギーの量で「どれだけ走ることができるかの競争」をしてみることにします(世界陸上の季節ですしね!)。

 「エネルギーで比べる世界陸上選手権」に、次のようなグリコキャラメル含む6選手をノミネートして、含まれるエネルギー(カロリー)で「身長165cm、体重55kgの人が分速160mで走ると…何メートル走ることができるか」を競争させてみることにします。

  1. ■ 現世界王者:グリコキャラメル1粒(記録300メートル)
  2. ■ 明治製菓 きのこの山1本
  3. ■ ロッテ パイの実1個
  4. ■ マカダミアナッツ(1粒)
  5. ■ リポビタンD( 1 / 10本)
  6. ■ 最強!?挑戦者:TNT火薬(1グラム)

 まず「基準」となるグリコキャラメルは、1粒(3.8グラム)16キロカロリーでおよそ312メートル走り抜くことができる計算になります。そして、きのこの山1本は約15キロカロリーで292メートルです。そして、パイの実1個は22キロカロリーで429メートルです。ちなみに、きのこの山もパイの実もグラムあたりにすると、どちらも5.5キロカロリーほどになります(チョコやクッキーは大体このくらいの重量あたりカロリーです)。

 マカダミアナッツは1粒(約2グラム)だと15キロカロリーくらいになりますから、292メートル走ることができます。そして、リポビタンDは1本74キロカロリーなので、1口くらいに相当する1/10本だと144メートルの計算です。

 そして、最強!?挑戦者なTNT火薬は1グラムあたり1キロカロリーのエネルギーを含むので、計算してみるとTNT火薬1グラムで走ることができる距離は19メートル…という計算になります。というわけで、飲食物とTNT火薬で「走ることができる距離」を比較してみた結果は以下の通りです。

  1. ■ 現世界王者:グリコキャラメル1粒:312メートル
  2. ■ ロッテ パイの実1個:429メートル
  3. ■ 明治製菓 きのこの山1本:292メートル
  4. ■ マカダミアナッツ(1粒):292メートル
  5. ■ リポビタンD(1本):144メートル
  6. ■ 最強!?挑戦者:TNT火薬(1グラム):19メートル

 実は、飲食物(特に菓子類)に含まれているエネルギーは、TNT火薬に含まれているエネルギーよりもずっと高いのです。たとえば、1グラムあたりに含まれているエネルギーを比べると、マカデミアナッツが約7キロカロリー、チョコ類が6キロカロリー、グリコキャラメルで4キロカロリーで、TNT火薬の(1グラムあたり)1キロカロリーに比べると、何倍も駄菓子類の方が高エネルギーなのです。

 だから、グリコ1粒300メートルの要領でTNT火薬1グラムで走ることができる距離を計算してみると、実は20メートルも走れない!?という結果になるのです。キャラメル1粒と同じ3.8グラムで計算したとしても74メートルですから、TNT火薬とグリコキャラメルが陸上競技場で対決すると…グリコキャラメルの圧勝!という結果になりそうですね。

 とても面白いことが、単純な算数を使うだけで導き出されることが数多くあります。 たとえば、以前書いたように、「35cm丈のミニスカートは絶対安全という証明」を簡単な算数(数学)を使うとすることができたりします。

 今回は、「薄着になりがちな真夏に、ブラジャーの中にある胸先が見えてしまうのは、一体どんな条件なのか?」を、誰もが習った「とても単純な算数」を使って導き出してみることにします。

 右上画像は、3/4カップ形状のブラジャーに包まれた「胸のモデル」を描いてみたものです。 ブラジャー中の胸先が「チラリ」見えてしまう現象は、胸とブラジャーの隙間から胸先が見えてしまうとことで起きてしまうものです。そこで、そんな「胸とブラジャーの隙間を通して胸先が見えてしまう条件」について、(右上図に2軸で書き入れた)断面平面を考えて、その平面上で簡単に考えてみましょう。

 右図が、バスト・3/4カップブラ(青太線)・胸先(朱色の円…円が2つあるのは、特に意味はありません)を描いてみたものです。 向かって右側が胴体側で、この平面図上で言うと、斜め右上から(胸とブラの隙間を通して)胸先が見えてしまっているような状態になっています。

 図を描き・眺めてみれば、胸先が胸とブラの隙間を通し見えてしまう時、その胸先が見える方向は、「胸先とブラのカップの縁を結んだ直線」と「胸先から胸表面に接するように引いた接線」との間の向きだということがわかります。言い換えれば、ブラ・カップ中にある胸先から(他の人の視点位置)に線を引いたとき、その線が「ブラカップの3/4円周の線」とも「胸を形作る半円」とも交わることが無い場合、「胸先チラリ現象が生じてしまう」というわけです。

 さらに、この図を眺めつつ「胸先チラリ現象が生じる・生じないの境界線となる”胸先チラリのギリギリ条件”」を考えてみれば、それは「胸先とブラのカップの縁を結んだ直線」と「胸先から胸表面に接するように引いた接線」が一致する時であることがわかります。その条件を境にして、(その条件よりさらに)胸とブラジャーの間に隙間がある場合に、ブラと胸の隙間を介して、胸先が見えてしまうことになる!ということになります。

 そこまでわかれば、後はとても簡単です。 下図のように「胸先とブラのカップの縁を結んだ直線」と「胸先から胸表面に接するように引いた接線」が一致した「胸先チラリ現象が生じる・生じないの境界線となる”胸先チラリのギリギリ条件”」状態の図を描き、胸の半径をr、3/4カップ形状ブラカップの半径をRとしてみれば、単純な補助線を描くことで、”胸先チラリのギリギリ条件”は、

ブラのカップ半径(R)=半円状の胸の大きさ(半径 r) × 1 / Cos(22.5°)

となる時だということがわかります。つまり、ブラのカップサイズ(半径)が胸の大きさ(半径)の1 / Cos(22.5°)倍より大きくなってしまうと、胸先チラリ現象が生じてしまうというわけです。ちなみに、ここで登場する22.5°は、「3/4カップ形状のカット角=45°」の半分です。

 1 / Cos(22.5°)は約1.1ですから、ブラのカップ・サイズ(半径)がホントの胸半径の約1.1倍より大きくなると、胸先チラリ現象が生じてしまう!ということになります。それは逆に言えば、ブラのカップ・サイズ(半径)がホントの胸半径の約1.1倍より小さければ、胸先が見えてしまうことはない、というわけです。

 ここまで来れば、後はもう簡単です。「ブラのカップ・サイズ(半径)」に関する少しの豆知識を組み合わせると、さらにリアルな「ブラジャーの中にある胸先が見えてしまう条件、すなわちブラのカップ・サイズ(半径)がホントの胸半径の約1.1倍より大きくなるというのは、一体どんな状況下で起こりうるのか?」という具体的状況すらわかります。

 まず、下の表は、ブラのカップ名称(AカップとかBカップとか言うアレですね)とアンダーバスト次第で、ブラジャーのカップ半径(cm)がどの程度の長さになるかを例示してみたものです。 ちなみに、ブラのカップ半径は、(トップバストとアンダーバストの差で定まる)AカップとかBカップといったカップ名称(だけ)で決まるわけではありません。 たとえば、下の表で言えば、アンダーバスト75cmのAカップもアンダー65cmのCカップも、カップ半径は同じく9.3cmというわけです。

 ブラジャーの中にある胸先が見えてしまう条件、すなわちブラのカップ・サイズ(半径)がホントの胸半径の約1.1倍より大きくなるというのは、(ホントの胸サイズにジャストフィットなものに対して)少し大きめのブラを着けてしまっている、という状況です。つまり、アンダーバストやAカップとかいったカップサイズを1サイズ程度選び間違えてしまうことで、ブラと胸の間に隙間ができ、そしてブラのカップ・サイズ(半径)がホントの胸半径の約1.1倍より大きくなってしまった場合に、胸先がチラリ見えるようになってしまうわけです。

 ここで重要なことは、ブラジャーのカップ半径表を眺めれば、「1サイズ程度選び間違えてしまった時、ブラのカップ半径が(間違えなかったとした場合をホントの胸の大きさだと考えれば)ホントの胸半径の約1.1倍より大きくなってしまう」というのが発生しうるのは、赤枠で囲った場合のみだということです。赤枠で囲ったカップ・サイズの場合のみ、ブラが1サイズ大きくなると半径が1.1倍超大きくなってしまうのです(それ以外のカップ・サイズの場合は、1サイズ大きいものを選んでも、元の大きさの1.1倍ほどの半径にはならないのです)。

 つまり、具体的には、

  • アンダー65cmのB,Cカップ
  • アンダー70cmのA,Bカップ
  • アンダー75cmのAカップ

にのみ、「胸先チラリ条件が発動する」というわけです。アンダー65cmのCカップというのは、かなりレアなパターンでしょうから、実際のところ「胸先がチラリ見えてしまいやすいのは、A,Bカップにほぼ限られる」と言っても良いだろう、ということになります。

 というわけで、今回は単純な算数(数学)を使い「胸先チラリ…」の幾何学を考えてみました。数学的に導き出された結果は、胸先チラリ条件が生じるのは「ほぼBカップ以下の小胸さんに限られる!」という「なるほど、確かにそうかも!」という答えでした。この豆知識、実用的でもなければ・誰かに披露すれば人気者になれる…わけではなさそうですが、とても面白いと思いませんか!?

 写真用モノクロームフィルムのことを、富士フイルムは黒白フィルムと呼び、コダックは白黒フィルムと呼びます。ちなみに、イルフォードはモノクロームフィルムと呼びます。フィルムでなく写真のことであれば、それぞれ「黒白写真」「白黒写真」「モノクローム写真」という具合です。…そう眺めていくと、「白黒写真という言葉は自然に思えるけれど、なぜ富士フイルムは黒白写真と呼ぶのだろう?」という疑問が頭に浮かんでくるのではないでしょうか?

 実は、モノクロ写真の昔ながらの呼び方は、「白黒写真」ではなく「黒白写真」でした。カラーが「総天然色」と呼ばれていた時代、モノクロームフィルムは「黒白フィルム」と呼ばれ、そしてモノクローム写真は「黒白写真」と呼ばれていたのです。

     

 たとえば、写真関連者向けに出されていた雑誌「写真工業」のバックナンバー記事を眺めてみれば(参考:1954-2005年分)、近年の数少ない例外を除けば、ほとんど「黒白写真」「黒白フィルム」と書かれていることがわかります。つまり、写真業界では、英語の”Black and white film” そのままの、黒白フィルムという呼び方が一般的でした。

 かつて、写真は、それを生業(なりわい)にするプロだけが撮るのが普通でした。しかし、1950年代中頃から、アマチュア写真家が増え、つまり一般家庭にカメラが普及していきました。 そして、いつしか、カメラは一家に一台以上普及する時代になりました。 つまり、写真フィルムを買い・使う人たちは、プロからアマチュアへと変わったのです。 さて、そのアマチュアたちが「黒白フィルム・写真」という言葉に対し、どのように感じるでしょうか?

 日本語の語感としては、「黒白」でなく「白黒」が普通です。たとえば、「黒白(こくびゃく)をつける」と、(黒を白より優先させる)中国発祥のため、本来は「黒→白」の順番だった言葉も、今では「白黒をつける」「白黒はっきりさせる」という具合に、「白→黒」の順番で使われることが普通になったように、今の日本語としては「白黒」語順が自然です。

 そのため、写真のプロフェッショナル=玄人(ちなみに、玄人=くろうと=黒人ですね)たちが昔から使っていた「黒白フィルム・写真」という言葉が、アマチュア=素人(しろうと=白人というわけで、これも古来中国では白より黒の方が優先されるべき存在となる、という例です)の私たちからみると不自然に感じられて、「白黒写真という言葉は自然に思えるけれど、なぜ富士フイルムは黒白写真と呼ぶのだろう?」という冒頭の疑問が浮かんでしまうという状況になった、というわけです。

 だから、冒頭の疑問は「ずっと昔から写真の玄人たちが使ってきた用語を、富士フイルムは今も使い続けている」が答え、ということになります。

 言葉の使われ方・意味は、その時代によって変わっていきます。たとえば、かつては「写真をとる」といえば、「(自分を)写真で撮影してもらう」ということを意味しました。

ねへ美登利さん今度一處に寫眞を取らないか、
我れは祭りの時の姿なりで、
お前は透綾すきやのあら縞で意氣な形なりをして

樋口一葉 「たけくらべ」

それはもちろん、写真は生業(なりわい)にするプロだけが撮るものだったからです。 しかし、写真を撮るのが一般的で当たり前なことになった今は、「写真をとる」といえば、自分(たちが)写真を撮影すること、になりました。

 「歌は世につれ 世は歌につれ」ではありませんが、言葉の意味・使われ方は、その時代のテクノロジーやライフスタイルに応じ移ろい変わっていくのです。