「トイレの数」は法律で決められています。
…こう書くと、誇大広告的かもしれませんが、たとえば「人々が仕事をする場所」の「トイレの数」などについては、それを定める法律があります。
昭和47年9月30日労働省令第43号「事務所衛生基準規則」には、事務所のトイレに関する「決まり」が書かれています。
事務所衛生基準規則の「トイレの数」を定める部分を眺めると、こうなります。
第十七条
事業者は、次に定めるところにより便所を設けなければならない。
一 男性用と女性用に区別すること。
二 男性用大便所の便房の数は、同時に就業する男性労働者六十人以内ごとに一個以上とすること。
三 男性用◆小便◆所の箇所数は、同時に就業する男性労働者三十人以内ごとに一個以上とすること。
四 女性用便所の便房の数は、同時に就業する女性労働者二十人以内ごとに一個以上とすること。
(以下略)
トイレは「男女別にすべし」あたりはわかりやすいですが、その後に続く「男女の便所の数についての”決まり」である第2項〜第4項あたりは少しわかりにくいかもしれません。
「トイレの数」についての「決まり」を整理し直して書けば、こうなります。
- 男性:60人あたり -> 大1個以上, 小2個以上
- 女性:60人あたり -> 大3個以上
つまり、法律上は「男女ともに60人あたり3個以上」必要で、さらに、男性の場合には「60人あたり、大便所が1個以上、小便所が2個以上」にしなければならない、と決まっているわけです。
この労働省令第43号「事務所衛生基準規則」で定められている「最低レベル」に沿ってトイレを作った場合、実は「女性便所の方が男性便所より必ず混雑する」という問題が生じます。
なぜかというと、女性の方が男性よりもトイレで時間が掛かるにも関わらず、男女ともに「トイレの数が同じ個数」とされているからです。
さらに、男性の場合には、使用頻度が高い小便(つまりオシッコですね)用の小便器、短時間で利用(つまりオシッコすることが可能な)小便所が設置されているからです。
たとえば、便器の性能表示の場合には「大便と小便の一日の回数試算」は「大便1回 / 日・小便4回 / 日」とされていますが、大便より頻度が高い小便をする際に「短時間でコトを済ませることができる(社会の窓を開け、放水作業をするだけです)」小便器があれば、男性たちは(小便器というものがない)女性たちより、極めて短時間でオシッコをすることができるわけです。
だから、法律、事務所衛生基準規則に決められた最低数に沿った「トイレ設計」をしてしまうと、実は、女性は「(男性より)トイレの数が足りない」ということになってしまいます。
…「事務所のトイレの数」については、法律は、実は男女不平等で「男性に多く・女性に少なく」という決まりだったのです。
法律で決められている「トイレの数が実は男女不平等だったなんて、少し意外だとは思いませんか?
道路の交差点や横断歩道などには、信号機が設置されています。
「赤信号、みんなで渡れば怖くない」なんて言葉もありましたが、信号の「止まれ」の色といえば赤色です。
それでは、「前に進んでOK・渡ってOK」は何色でしょうか?
「青色」と答える人が一番多そうですが、「緑色」と答える人もいるかもしれません。
答えが分かれるのも当然で、信号の「前に進め」の「色」は、「青と緑が混じったようなビミョーな色」です。
しかも、「”前に進め”の色」が「青と緑が混じったようなビミョーな色」というのは、実は何と「日本だけの独自ルール」だったんです。
国際的には、「信号に何色を使って良いか」という標準的なルールがあります。
それは、CIE(国際照明委員会)が出した「赤・黄・緑・青・紫・白」といった6色です。
これら6色が選ばれている理由は、「見た時に色名を簡単に判別することができるため」とか「他の色と混同するようなことがないため」といったことです。
そして、ほぼすべての国で、信号機の「止まれ」の色は「赤」で、「前に進め」の色には「緑」が使われています。
「あれ?日本の信号には、なぜ”青と緑が混じったようなビミョーな色”が使われているんだ?」と不思議に感じるはずです。
日本も、かつては「前に進め」の信号は「緑色」である、と法規上決まっていました。
しかし、(さまざまな理由から)次第に「青っぽい色」が使われるようになり、今の法規では、「前に進めの信号」の色名は「青色」ということになっています。
そして、日本で使われる「”前に進め”の信号機色」は、「青と緑が混じったようなビミョーな色」になっています。
CIE(国際照明委員会)の「信号機の色としては、こういう(範囲の)色を使うべし」という「色範囲」と「(日本の法規で決まっている)日本で使って良い”青信号”の色範囲」を描いてみたのが下の図です。
この図を見ると、結構面白いことがわかります。
日本の青信号の「色範囲」は、実は「国際的な”緑色”の色範囲」に重なっています。
そして、ギリギリ「国際的な”青色”の色範囲」に「重ならないように」決められています。
つまり、「日本も”前に進め”の信号色は、緑色ですよ〜。世界標準をちゃんと準拠してますよ〜。青っぽく見えても、実はこれは世界標準の”緑色”ですよ〜。だって、”青色”の範囲は使ってないですもん〜」という”言い訳”がされているわけです。
つまり、「国際的には”緑色”と主張できる(?)範囲内で、最大限”青色”っぽくした」のが、日本の「前に進め色=青と緑が混じったようなビミョーな色」という色なんです。
最近、TPP問題などで、「国際的なルールと日本国内ルールの違い」といったことを意識することも多いのではないでしょうか?
日本の街中に溢れている「信号機の色」にも、実は(外国から見ると)日本独特のローカル・ルール(国内法規)が隠れていたりするのです。
…いつか、日本の信号機の「青色」も、多くの国が使っている「緑色」へと変わっていく(戻ってしまう)日も来るかもしれませんね。