雑学界の権威・平林純の考える科学

 小便器におしっこをすると、意外なほど多くの飛沫が周りに飛び散ります。 飛沫が便器の外に跳ねて床を汚すことも多いですし、(放水作業にいそしむ)自分の服に跳ね返る(いわゆる誤爆してしまう)ことも多いものです。 そこで、そんな時に役立つワンポイント豆知識、小便器で飛沫を飛ばさないコツを考えてみることにします。

 街中の施設中にある小便器に、小便を狙うための「ターゲット」が貼り付けられていることがあります。 たとえば、右上の写真の小便器をよく見ると、向かって左下あたりに「ターゲット」シールが貼られています。 つまり、「この位置に放水作業をすれば、飛沫が飛びにくく、周りを汚しにくい」という位置が、狙いを付けやすいようにマーキングされていたりします。このマーク、貼り付けられている位置を観察してみると、小便器の(左右方向)中央でなく、規則正しく中央からズレた位置に貼り付けられていたりします。これは偶然なのでしょうか?

 いえ、それはもちろん偶然ではありません。この「小便ターゲット」の開発元の「使用方法(シールの貼り付け方)」(例:右に貼り付けた画像)を眺めると、「真ん中を外した、真ん中から1インチ(約2.5cm)左右にずらした位置」に貼り付けるようにとの指示が書かれています。 実はその場所こそが、一般的に、小便の狙いをつけたとき飛沫が周りに飛び散りにくい位置なのです。

 小便が便器に当たった時の飛沫を少なくするためには、「小便が便器に衝突する時、小便が便器壁面に沿った角度で壁面に当たること」が必要になります。そうでないと、壁面に衝突した水滴が、壁面や周囲の水滴から離れてしまい、周りに飛沫として散らばってしまいます。すると、左右方向に関しては、小便を壁面に真っ正面から当てるより、左右に(放水器を)振った方が壁面に対してなだらかに当てることができます。その一方、あまり大きく左右に外れた方向を狙うと、「放水の先が広がり・ハズれ飛沫が増えて」しまいます。だから、左右方向に関して、おしっこで狙う箇所は、真ん中から少し左右に外れた箇所、となります。

 そして、放水の垂直方向も、放物線を描くおしっこが「小便が便器壁面に沿った角度でなるべく(安定して)壁面に当たること」と「放水の先が広がり・ハズれ飛沫が増えないようにすること」を考えると、「水平より少し下目」を狙うのがベストチョイスとなります。だから、左右方向と垂直方向を合わせると、小便器で飛沫を飛ばさないコツは「真ん中を外した左右、そして水平より少し下目」を狙うことだ!となるわけです。

 あなたが男性なら、トイレに入った時、小便器に「ターゲット」が張ってあれば「張り位置」を確認してみたり、ターゲットがなければ、「真ん中を外した左右・水平より少し下目」を狙うようにしてみると良いでしょう。そして、あなたが女性なら、こんな「あなたの知らない世界」を楽しんでみるのはいかがでしょうか。

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参考:Blenderによる水が壁面と衝突するシミュレーション例:, ,

 一万円札には、古くは聖徳太子、1984年からは福沢諭吉の肖像画が描かれています。 現在発行されている一万円札(平成十六年十一月一日から発行を開始する日本銀行券壱万円、 五千円及び千円の様式を定める件で定められています)には、和服姿に(叩くと文明開化の音がしそうな)洋風髪型の福沢諭吉が描かれています。この一万円札の福沢諭吉を、赤外線で眺めると、まるで「チョンマゲ頭の福沢諭吉」が見えてくることをご存じでしょうか?

 赤外線で一万円札の福沢諭吉部分を撮影してみたのが、右の写真です。…赤外線で眺めると、ふつうの(私たちが目にすることができる)可視光で眺めた福沢諭吉とは大きく異なる姿が浮かび上がってきます。散切り姿の頭頂部頭髪が消えて、まるでチョンマゲ姿のような福沢諭吉の姿が見えるのです(参考:江戸幕府時代のチョンマゲ姿の福沢諭吉)。

 これはもちろん、紙幣偽造防止のために、福沢諭吉部分には(まるで全く同じような色に見えても)実は部分毎に赤外線の吸収(透過)度合いが異なるインクが使われているからです。だから、赤外線の目で一万円札を眺めると、諭吉の(向かって)右の部分も「真っ白」に見えますし、頭頂部は(本来は洋風の散切り頭のはずなのに)チョンマゲ姿に見えてしまう、というわけです。一件ホンモノそっくりな偽一万円札を作ったとしても、赤外線で眺めれば「(極端に言うと)チョンマゲ姿じゃないから、どうみても偽札だ!」とわかってしまうわけです。

 可視光で眺める世界と、赤外線で眺める世界は、意外なほど大きく違います。私たちが手にする一万円札に描かれている福沢諭吉先生も、赤外線で眺めると、文明開化の明治時代から、江戸時代のチョンマゲ姿に装いを変えるのです!

 「歩くべき or 走るべき?の境界線」は時速8kmだ!で、「人が歩いたり走ったりする時の、移動速度(km/h)と体重あたり酸素消費量(ml / kg / min)」データを眺め、時速8km程度までは歩く方が楽だけど、それより速く移動しようとすると走った方が良い!という「”歩く”と”走る”の境界線」を学びました。…今回は、「歩く」と「走る」の境目を、別の視点、簡単な物理モデルを使った解析解から考えてみようと思います。

 歩く時の人の動きを考えてみると、(右に貼り付けた図のように)人の腰は上下動を繰り返します。そして、腰が描く軌跡は「足を半径とする円弧を連ねた形」です。片足だけが地面に着いてる間は、その片足を半径として描かれる円弧に沿って腰が動き、もう一方の足が地面に着いた瞬間に、足を着いたことで大きく衝撃を受け・体の動きが変わり・(その足を半径として)次の円弧に沿って体は動いていきます。

 この(歩いている)人に働く力・加速度を考えてみると、まず足を着いた瞬間には下から突き上げる力・加速度を受け、それまで下向きに動いてた体の動きが、上向きへと方向を変えます。そして、それ以降の円弧状の動きをする時には、体は遠心力を受けることになります。ちなみに、腰の高さが一番高くなっている瞬間は、「人が進む方向」と「円弧状での向き」が一致するので、 体が受ける遠心力の加速度は(上向きに)「歩く速さの2乗 / 足の長さ」になります。

 そこで、この式を使って、およそ足の長さが80cmくらいだとして、「歩く速さ」に応じて「(歩行中に人が受ける)上向き加速度の最大値」をプロットしてみると、右のグラフのようになります。単純に言ってしまえば、歩く(進む)速さが速くなれば、それに応じて上向き最大加速度も大きくなるということですが、実はもっと興味深いことが見てとれます。それは、進む速さが時速10km程度になると、上向き最大加速度が「(私たちを地面に縛り付けている)重力加速度=9.8m/s^2」よりも大きくなってしまう!ということです。…つまり、私たちが時速10km程度で歩こうとしても、足が伸びきった瞬間に私たちの体は浮かび上がってしまう=走り出してしまう、ということがわかります。体のサイズ等で多少前後しますが、時速10km程度になると、”歩くという動き”が自然にはできなくなってしまうのです。

 すると、以前の話、時速8km程度までは歩く方が楽だけど、それより速く移動しようとすると走った方が良い!という「”歩く”と”走る”の境界線」が実に納得できます。その程度の速さまでは「歩く」ということができるけれど、もっと速く走ろうとすると「自然には不可能だから、少し無理のある動き・工夫した動き」をしなければならなくて、そのため「歩く」より(自然にまかせて、体を浮かび上がらせて)「走る」方が楽になる…という理屈だと考えると、とても自然に納得できます。

 もしも「歩くべきか、それとも、走るべきか…?」と優柔不断なハムレットが悩んでいたとしたら、「それはキミ、歩くと走るの境界線は時速8〜10kmだよ。もし、キミの足が普通よりずいぶん短ければ、たとえばドラえもん的に短ければ、もっと遅い速さでも走らないとダメだけどね!」と教えてあげれば良いわけです。