雑学界の権威・平林純の考える科学

 駅からどこか目的地に向かうときには、時間があれば「歩く」ものですし、時間がなくて急いでいるような場合には「走る」ものです。…それでは、どのくらい急いでいれば、「歩き」から「走る」に変わるものなのでしょう?つまり、「歩く」と「走る」の境界線は、どのくらいの「速さ(どのくらい時間がなくて急いでいる)」にあるのでしょうか。

 右のグラフは人が歩いたり走ったりする時の、移動速度(km/h)と体重あたり酸素消費量(ml / kg / min)を示したものです。わたしたちは酸素を吸ってエネルギーを生み出すのですから、つまりこのグラフは、わたしたちが歩いたり走ったりする時の、移動速度と消費エネルギーを示したものです。

 このグラフを眺めてみると、時速が約8kmより遅いのであれば歩く方が仕事率が高いし(効率が良い)、それより早い(急いでいる)のであれば歩くより走った方が効率が高くなる、ということがわかります。つまり、効率よく・楽に移動しようと思ったら、移動速度が時速8kmより遅くても間に合うようであれば歩いた方がいいし、それより急がないとダメなようであれば走った方が楽であるわけです。だから、もしも「歩くべきか、それとも、走るべきか…?」とハムレットが悩んでいたとしたら、「それはキミ、歩くと走るの境界線は時速8kmだよ」と教えてあげれば良い、ということになります。

 ちなみに、「早く歩く」といえば競歩です。競歩の速さは、時速15kmくらいだと言います。エネルギー消費量のグラフを眺めてみると、競歩はランニングより遙かにエネルギーを消費するシンドイ競技だ!ということも実感できるはずです。時速8kmの「歩くべきか走るべきか?の境界線」を超えて、「走った方がずっと楽なのに、そこをガマンしてシンドく歩き続けている」…それが競歩という競技だったのです。

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