雑学界の権威・平林純の考える科学

 カラフルなボールペン芯を何本か自由に選び、「自分だけの多色ボールペン」にすることができる多色ボールペンが各社から出ています。 そんな多色ボールペンの中でも、「ノック部」がインクと同色になっている替え芯を売っているのはPILOT社だけ、ということにお気づきでしょうか? 「(たくさんの色の替え芯の中から、自由にカスタマイズできる多色ボールペンを使っていて)○×色のボールペン芯を出したい」と思ったとき、その色をノック部で識別できるのは、実は(現在のところ)PILOT社が売っている多色ボールペンシステムだけなのです。

 何色もの替え芯を使い自由にカスタマイズできる多色ボールペンで「ノック部の色をインクと同色にする」ためには、替え芯にノック部が付いていなければなりません。ボールペンのホルダーには「ノック部」が付いてなく・替え芯に(替え芯と同じ色の)ノック部が付いている場合にのみノック部をインクと同色にできます。 当たり前の話ですが、ホルダー側にノック部が付いていたとしたら、自由に選ぶことができる(何色もの)替え芯の色と同じにすることはできないからです。

 そして、PILOT社の多色ボールペンだけが、「後端(ペン先とは逆側)」から替え芯を入れることができる構造になっています(右の写真で、下にあるのがPILOT社の多色ボールペン。芯が後端から抜き差しするようになっていることがわかると思います)。 他社の多色ボールペンは、たとえば替え芯をペン中央部から入れるような仕組みになっているのです。 PILOTだけが「リフィル多色ボールペンのノックボタンをインク同色」にできるヒミツは「ここ」にあります。 つまり、ボールペンの後端に位置するノック部をボールペン芯と一体化させることが容易な構造になっているのがPILOT社だけであり、他社は(替え芯をペン中央部から入れる構造になっているために)交換用の替え芯とノック部を一体化させることができないのです。そして、必然的に、何色もの替え芯を使い自由にカスタマイズできる多色ボールペンでは「ノック部の色をインクと同色にすることが(他社は)できない」ということになるわけです。

 PILOTだけが「リフィル多色ボールペンのノックボタンをインク同色」にできるヒミツは、結局のところ、「PILOT社の多色ボールペンだけが、後端(ペン先とは逆側)から替え芯を入れる構造になっている」ということに尽きます。そして、さらに言えば、PILOT社だけが「その構造の多色ボールペンを作ることができる」のは、その構造が「特許第4689513号」という特許でPILOT社の権利として保護されているからです。

(請求項1)
 軸筒内に複数の筆記体を前後方向に移動可能に収容し、前記各々の筆記体を弾発体により後方に付勢し、前記各々の筆記体の後端に、各々の筆記体に対応した操作体を連結し、軸筒の側壁に前後方向に延びる複数の窓孔を径方向に貫設し、前記各々の窓孔から径方向外方に前記各々の操作体を突出させ、一つの操作体を窓孔に沿って前方にスライドさせることにより、その一つの操作体に連結された筆記体のペン先を軸筒の前端孔から突出させるとともに、先に突出状態にあった他の筆記体のペン先を軸筒内に没入させる多芯筆記具であって、軸筒の後端に、窓孔を後方に開口させる開閉自在の開口部を設け、前記開口部を介して筆記体及び操作体を、軸筒内から取り外し可能且つ軸筒内に挿入可能に構成したことを特徴とする多芯筆記具。

(請求項11)
 前記各々の操作体は、それが連結される筆記体の内部に収容されたインキの色に着色される請求項1乃至10のいずれかに記載の多芯筆記具。

 もし、PILOT社以外が「リフィル多色ボールペンのノックボタンをインク同色」にしようと思ったら、①上記の特許範囲に入らないような仕組みでペン後端から芯交換をできるようにするか、あるいは、②(ふつうはペン後端に位置する)ノック部と一体化した替え芯をペン後端以外から替え芯を入れる構造を実現する、あるいは、③ノック部をペン後端以外に持たせる、という具合になります。そういったことは、コスト・効果(メリット)から見合わないと他社は判断し、リフィル多色ボールペンのノックボタンをインク同色にしていないのでしょう。

 もしも、他社のボールペンの書き心地の方が好きなのに、(何色もの替え芯を使い自由にカスタマイズできる)ノック部の色がインク同色の多色ボールペンを他社が出さないことを残念だと感じれば、上記①②あるいは③の簡単にできそうな仕掛けを考えてみると面白いかもしれませんね。