雑学界の権威・平林純の考える科学

 ロンドン五輪のシンクロナイズドスイミング中継で、NHKが「水中と水上それぞれで撮影した映像を、水面を挟んだ1つのスムーズな映像に合成する技術(ツインズカム)」を使うという記事を読みました。私たちが普通に眺めることができるのは水上の景色だけですが、その景色に加えて、私たちが眺めることができない水中の景色をもスムースに繋がった景色として眺めることができるなら、どんなに新鮮な景色を見ることができるのだろう?と楽しみになります。

 ツインズカムは、水中と水上に設置した2台のカメラの映像を、水面を境界に合成し、水面にレンズを置いて撮影したかのような映像を表現するカメラ。NHK独自の技術で、国内の中継で運用しながら改良を重ねてきた。
 水と空気中では光の屈折率が異なるため、2つの映像を単純に合成すると、水中の物体が拡大表示され、スムーズにつながる映像にはならないが、ツインズカムは上下のカメラのズーム比を自動調整し、自然に見える映像を作り出す。

 プールの水中の景色は、普通、水中カメラを通してしか眺めることができない…と思われるかもしれません。 しかし、実は、こうした(たとえばシンクロナイズドスイミングのような)競技が行われるようなプールでは、水中カメラを通さずとも水中の景色・選手の水中パフォーマンスをクッキリハッキリ眺めることができるのです。 なぜかというと、プール壁面に透明板が埋め込まれ・その透明板を隔てて隣接する小部屋があって、その部屋からプールを眺めると、まるで水族館の水槽のように水中のようすを見ることができるのです。

 右の写真は、東京辰巳国際水泳場のプールに備え付けられた「コーチ・ルーム」から(プール内部を)撮影した写真です。 (画面中央辺りにある水面で水中からの光が全反射しているために)上面にもプールの底があるように見えますが、この景色は「浅く見えてもなんと水深5m!のプール」を水中真横のコーチ・ルームから撮影した写真です。 こんな風に、競技用のプールの横には(まるで水族館の水槽のように)プールの中を見ることができる部屋が併設されていたりするのです。 右の写真も、奥の方を眺めてみると、対面部分のプール壁面にも「同じようなコーチ部屋」があることがわかります。

 オリンピック映像を眺めるとき、たとえば水深深いプールで行われている競技を眺めるとき、そのカメラに映っている景色をジックリ眺めてみると、「ええっ?こんな所に秘密のナゾの小部屋・マジックミラーがある!」と気づかされるかもしれません。 オリンピックが行われているこの夏、ロンドンオリンピックの会場となっているプール映像を眺めてみれば、「見えない景色を(見えるように)作り替える技術」が活躍していたり、あるいは「見えにくいけれど、実はコッソリと存在する景色」に気づかされるかもしれません。