雑学界の権威・平林純の考える科学

 先週末の土曜日、2011年12月10日の夜、たくさんの人たちが皆既月食を見上げていました。 あの夜、空に高く浮かぶ満月が急に三日月へと姿を変え始め、陰った部分は赤くなり…いつの間にか赤い満月が一時間近く空に浮かんでいました。その皆既月食中の月を眺め、幻想的なまでに「赤い」ことに驚いた方も多かったのではないでしょうか?

 太陽の光が地球に遮られて月に届かなくなると「月食」になります。 …しかし、太陽からの光が(地球から見える側の)月面に完全に届かないわけではありません。 実は、地球の周りにある大気中を通過した太陽光の一部が、大気中を通過し・方向を変えつつ月面を照らすのです。 その際、青色や緑色の光は地球の影の中に隠れた月面まで届かずに、(右図のように)赤色系統の光だけが月面まで辿り着きます。 地球の周りの大気中を、主に赤い色の光だけが通過し・少しづつ色々な方向に向きを変え・進み、その一部が月面を照らします。 だから、皆既月食中の月は赤く見える、というわけです。

 ちなみに、「地球の周りの大気中を、主に赤い色の光だけが通過し・少しづつ色々な方向に向きを変え・進む」のは、「夕焼けが赤くなる理由」と同じです。 地球上にいる私たちが眺める(地球の)地平線近くから差し込んでくる太陽の光が赤く見えるように、月面から眺めても、地球の地平線近くから差し込んでくる太陽の光はやはり赤く見えるのです。( 参考:宇宙ステーションから見た”夕焼け”

 だから、あの皆既月食の夜、私たちが見上げた「赤い月」は、実は(遙か彼方の)地球の周りに輝く”夕焼け”に照らされた赤い月だったのです。 皆既月食を迎えるとき、地球の月面は地球の影が作る夕焼けに照らされて夜になり、一時間ほどの夜を過ごし、そして、地球が作る朝焼けがその夜を終わらせます。 そんな”地球の夕焼けと朝焼け”に照らされて、赤く染まる月を、私たちがその地球の上から眺めていたのです。 …何だか、少し不思議で、とてもロマンチックですね。