雑学界の権威・平林純の考える科学

 夏になると、(赤い日焼けを生じさせる)紫外線が強くなります。紫外線を弱める「上空にあるオゾン」が減るため、体を火傷のように赤く火照らせる紫外線B波(UVB)が一番強くなるのです。だから、紫外線(UVB)の量の目安として気象庁が出すUVインデックスの月推移などを眺めれば、東京近くでは、8月頃にピークを迎えます。

 紫外線(UVB)が強いのは8月頃だとして、それでは紫外線が一番強いのは一体どんな日・条件なのでしょうか?「雲ひとつない晴天の日」と思われる方も多いかもしれませんが、実は紫外線(UVB)が一番強くなるのは「薄曇りの日に、ポッカリ空いた雲の隙間から太陽が照らしている時」です。晴れた日より、雲の合間から太陽が地上(あなた)を照らしている日の方が、数十パーセント近く紫外線量が多いのです。

 雲に遮られると、紫外線(UVB)の量は数十パーセント以下になってしまいます。しかし、そんな雲がある時でも、雲の合間から太陽が丸々顔を出していたら、どういうことが起きるでしょう?

 まず、太陽はあなたを直接照らしていますから、晴天の日と同じ程度の紫外線量が太陽から直接あなたにあたります。さらに、それに加えて、雲が反射・散乱した紫外線が(本来あなたに向かうはずでなかったはずの紫外線が)、方向を変えてあなたに向かってくるのです。

 雲で反射・散乱する紫外線の量はどのくらいになるかは、簡単な概算をしてみればわかります。 もしも雲がどの方向にも等しい量で(等方的に)紫外線を反射・散乱しているとすると、あなたに空にある雲全体から降り注ぐ紫外線量は、「雲が透過させる紫外線量」と同じになります。なぜかというと、雲は「雲が透過させる紫外線量」を「ありとあらゆる方向に」バラまきます。そして、あなたからの周りには(太陽の方向以外の)ありとあらゆる方向に雲があるため、雲が周りに全方向にばらまく紫外線をあなたは全方向から受け取ることになります。だから、ほぼ全周囲からとりまく雲からの紫外線量を積分すれば(足し合わせれば)結局のところ雲が透過させる紫外線量があなたにあたる、ということになるのです。

 その結果、太陽から直接あなたに向かう(晴天時を基準にすると)100パーセントの紫外線に加え、周りの雲で反射・散乱された紫外線分の数十パーセントが上乗せされ、晴れた日より数割以上強い紫外線量になるのです(たとえば、下の参考文献の論文”Effects of clouds and haze on UV-B radiation”では、曇の隙間から太陽がのぞいている時は、晴天時に比較して30パーセント近く紫外線(UVB)が強かったという測定結果になっています)。

 「曇っている日は紫外線対策をしなくて済む」と思っていると、恐ろしいことになるかもしれません。紫外線は「雲の合間から日が照らす時」が一番強烈なのです。


参考文献:
“Effects of clouds and haze on UV-B radiation” J.G. Estupinan and S. Raman
オゾン層等の監視結果に関する年次報告書 環境省

 無味乾燥に思える「決まり」も、よく眺めてみれば、それは意外に新鮮で面白いものです。 …というわけで、今日は「ガリガリ君」を食べつつ、ちょっと(夏の暑さを吹き飛ばし)涼しい心地を感じることができる「雑学」です。

 気象庁の「降水」に関する用語解説ページを眺めると、

  • あられ(霰):雲から落下する白色不透明・半透明または透明な氷の粒で、直径が5mm未満のもの
  • ひょう(雹):積乱雲から降る直径5mm以上の氷塊
と書いてあります。 この解説を読むと、「霰(あられ)と雹(ひょう)が大きさ(直径5mm)で分けられていた」ということを意外に新鮮に感じるのと同時に、「おや?あられ(霰)は”雲から落下する”と書いてあるのに、なぜ”ひょう(雹)は積乱雲から降る”と雲を積乱雲に限定してあるんだろう?」という疑問を抱くのではないでしょうか?

 もちろん、(直径5mm以上という)大きな「雹(ひょう)」を降らす雲が積乱雲、つまり入道雲とか雷雲と呼ばれる雲に限定されているのには理由(ワケ)があります。 入道雲のような強い上昇気流を伴う雲でなければ、直径5mm以上もの大きな「氷の塊」を作り出し、地上に降らすことができないのです。

 空から氷片(や水滴)が降るとき、その粒径で(重さに対する)空気抵抗が決まり「地上に落下するまでの時間」が決まります。 粒径が大きいと(氷片の重さに対する)空気抵抗は小さく、上空から単純に氷片が落ちてくるとすると、雲の高さから数分もしないうちに地上に辿り着いてしまう、ということになります。 しかし、そんな短時間に、大きな氷塊を量産できるわけもありません。 「冷蔵庫で直径5mmの氷塊をザクザク・ガリガリと作ろうとしてもすぐに作ることなんてできない」のと同じく、直径5mm以上の大きな雹(ひょう)を作るには、やはりそれなりの時間がかかるのです。

 実は、直径5mm以上の大きな雹(ひょう)は「入道雲の中に流れる強い上昇気流に上に吹き上げられることで、入道雲の中に長い時間浮かび続け、長い時間にわたり浮かび続けている間に大きな氷の塊にまで成長し、そして地上に「直径5mm以上の氷塊」となって落ちてくるのです。 だから、サイズが大きな氷塊=雹(ひょう)を作り出すことができるのは強い上昇気流を伴う雲、すなわち、入道雲(積乱雲・雷雲)に限定される、というわけです。

 というわけで、雹(ひょう)が降るのは入道雲が空に浮かぶのと同じ季節です。 もっとも、真夏だと、入道雲が空から雹(ひょう)を降らしたとしても、雲の高さから地上へと辿り着くまでの間に「氷片が雨に変わって」しまいますから、だから、雹(ひょう)が降るのは初夏が多くなります。

 もしも、この暑い夏に、「シッポ」を伸ばしている真夏の入道雲を見ることができたら、その「シッポ」は実は雲が降らす天然のカキ氷…雹(ひょう)だったりするかもしれません。 そんな時は、「入道雲から伸びるシッポ」の中に入ってみると、ヒンヤリ冷え冷えな雹(ひょう)や霰(あられ)を味わうことができるかもしれません。

 京都にある古くからの家の作り、京町家には「居住スペース」の両側に庭があり、その片側の庭にだけ打ち水をすると、暑いままの庭に上昇気流が発生し、水を打った冷やされた庭から涼しい風が座敷を貫通し流れていく、という話があります。

 古くから続く京都の町家は、まさにウナギの寝床のようで、入り口から最奥部の坪庭まで部屋と通路が真っ直ぐ続きます。居住空間を囲む両側に、交互に水を撒くことで(水を撒いた側の)地面とその上にある空気を冷やすだけでなく、温度差を作り・空気の密度差を作り、結果として、家の中を心地良く吹く風の流れを作る…というのです。

京町家模型で確かめる打ち水の科学

 ためしに京町屋の中にある「庭」に水を撒いたとき、家の中を吹き抜ける風の動きを試算してみると、およそ秒速0.5メートルくらいの「かすかな風」が吹きそう、というようになります。

 坪庭は高い壁に覆われています。その壁の高さは4mとしましょう。そして、水を撒くことで、(高さ4mの)坪庭内の気温が2度(外気より)下がったものとします。少しひんやりした坪庭は、坪庭最下部横から(居住空間を介して)暑い外へと空気が通り抜けることができるとします。すると、坪庭内と外部との圧力差で生じる風速はおよそ0.5m/s強、となります。

「打ち水で京町屋を通り抜ける風の速さ」を計算しよう!

 しかし、水を撒く場所を、「(壁に囲まれた)家にある中庭」でなく「家の前の路地」に巻いたような場合、冷えた重い空気は家の中に吹き込むことなく、ただ通りに沿って他の場所に流れてしまいます。

 そこで、もう一度「京町家模型で確かめる打ち水の科学」で引用した文章を読み直してみると、「居室空間の両側に庭があることが、打ち水には大切な要件だ」と書いてあります。なるほど、水を撒くのは、家の前の路地ではなく、居住空間を挟む「(高い壁に囲まれた)庭」だった、というわけで、この「打ち水のキマリ」とても納得できる話です。

 京町家では居室空間の両側に庭がある。そのことが打ち水には大切な要件だと、ご夫妻(西陣帯地「渡文」当主渡邉夫妻のこと)にお教え頂いた。

京町家模型で確かめる打ち水の科学

 ところで、2つの庭の温度差が生む気圧差によって風を生じさせようとしたならば、「交互に水を撒く」のではなく、いつも片側の庭を「(外気と同じ)灼熱状態」のままにして、もう片側の庭だけを打ち水で冷やしていた方が効率が良いような気もします。ふたつの庭の間を吹き抜ける風の速さは、(その瞬間に気化熱で冷却される熱量ではなく)庭の温度差に依存しますから、交互に冷やしたりせず「熱い」「冷たい」の機能を分離した方が(生じさせる風速に関しては)効率が良くなりそうです。

 …さてさて、暑い夏が「夏真っ盛り」でスタートしました。夏休みの自由研究に「打ち水の科学」を選んで実験・解析をして、あなたの部屋や、あなたの家の前を、あるいは、あなたが暮らす街をちょっと涼しくしてみるのはいかがでしょうか?