雑学界の権威・平林純の考える科学

 テレビ朝日系列「マツコ&有吉の怒り新党」は、有吉弘行・マツコデラックス・夏目三久の3人が「視聴者が投稿してきた”怒ってること”」に関してトークを繰り広げるTV番組です。その「マツコ&有吉の怒り新党」の11月14日放映中、「(グレーのカーディガンを着た)夏目アナの脇汗染みがスゴかった」と話題になりました。確かに、右の画面を眺めてみると、夏目アナの左脇にはクッキリと脇汗染みが浮かび上がっていることがわかります。

 夏目アナの脇汗事故の一番大きな原因は、夏目アナが着用していた「グレーのカーディガン」にあります。 なぜかというと、実はグレー(灰色)というのは、脇汗染みが最も目立ってしまう「魔の色」なのです。 今回は「灰色の服が汗染みに弱い理由」を科学的に調べてみることにします。

 照明ライトや太陽の光といった白い光が「色が付いた服」を照らすとき、白い光は服繊維の中に入り、繊維中で方向を変えながら(散乱しながら)進みます。 そして、繊維中であまりに方向を頻繁に変えるため、通常、光は繊維の外にすぐ出てきてしまいます(光にとっては方向を変えまくっていたら、気づくと繊維の外に向かっていた…という具合です)。たとえば、右の画像は、(紫色の)服繊維内部に入った光軌跡をシミュレーション計算してみた一例ですが、白い光が紫色の繊維層に侵入した…と思ったらすぐに進行方向を変えて、少し紫がかった状態で繊維の外に出てしまっていることがわかります。 …こうしたことの結果、通常、白い光は「繊維の色=服の色」に色づくよりも前に服から出て、私たちの目に届きます。つまり、服の色は「白い色+(少しの繊維の色)=白がかった繊維色に見えることになります。

 ところが、繊維に汗が染みてしまうと、(繊維と汗の屈折率がさほど変わらないという理由により)繊維中で光が散乱しなくなります(参考:「水に濡れた白服が透ける理由」と「白色顔料の歴史」)。 その結果、汗が染みた服は「繊維本来の色」として見えるようになります。 すると、「汗が染みていない部分=白+(少しの)繊維色」の中に「汗が染みた部分=繊維本来の色」が浮かび上がることで、「汗染み」として目に見えるようになってしまうのです。

 ということは、「汗染みの目立ちやすさ」は、「白+(繊維本来の)○×色」と「(繊維本来の)○×色」の差が一番大きな色は何色か?という問題に置き換わります。 そして、白と最も違う色は…「そうだ黒に違いない!」ということにも気づくのではないでしょうか。 つまり、「白色に黒を混ぜた色=灰色(グレー)」の服が「一番汗染みが目立つ色」なのだろう、と思い至るはずです。

 実際、青色・紫色・灰色のセータで「脇汗染み」ができた時に「色がどう変わっていくか(色の変化)」のシミュレーションを行い、(おおよそ私たちが感じる色の差・違いをユークリッド距離で測ることができる)LAB色空間で眺めてみたものが右のグラフです。 「汗が染みる前の服の色」と「汗染みができた後の服の色」の「距離」が離れているものが、汗染みが目立つ(=色の違いが目に付きやすい)色ですから、灰色の服は(他の色の服に比べて)汗染みで大きく色が変わる、ということがわかると思います。

 夏目アナの脇汗事故はなぜ起こったか?…それは夏目アナが着ていたカーディガンの色(グレー=灰色)が原因です。灰色の服は汗染みに弱いのです。

 血圧を表す時にはmmHgという単位が使われます。たとえば、動脈の血圧を計った時「最高血圧が125mmHg未満、最低血圧が80mmHg未満が正常だ」という具合です。
 この「mmHg」という単位は、1mmの深さの水銀が与える圧力です。 つまり、鉛直に立つパイプの中に水銀を注ぎ込んだ時の「底での圧力」を「水銀の高さ(mm)」で表し、その圧力を介して他の圧力を表現するわけです。

 しかし、「水銀の高さ」で血圧を表現されても、「それがどのくらいの圧力」なのか体感しづらいのではないでしょうか。 なぜなら、わたしたちは「水銀を注いだプールで泳ぎ、その圧力を感じたりする」ことはありませんし、そもそも水銀には毒性があるので、水銀を触ること自体がないはずです。

 そこで、血圧(mmHg)を他の体感できる単位やモノに換算してみることにします。 つまり、わたしたちに身近なものに換算してみよう!というわけです。

 まずは、血圧を「気圧」に換算してみましょう。 わたしたちを取り巻く空気(大気)は、地表から遙か上空まであり、その空気の重さが、わたしたちに乗しかかっています。 その圧力(気圧)はmmHgにすると、およそ760mgほどになります。 逆に血圧(mmHg)を気圧に換算して言えば、「最高血圧が125mmHg未満、最低血圧が80mmHg未満が正常だ」は「最高血圧が0.16気圧未満、最低血圧が0.1気圧未満が正常だ」という具合になります。 そして、血圧が実は気圧との差として計られていることを考えれば(地表にいる物体には約1気圧が常にかかっているため、それとの差分を計り・示しているのです)、つまり、これは「最高血圧が(大気圧より)0.16気圧未満(高いくらい)で、最低血圧が(大気圧より)0.1気圧未満(高いくらい)が正常だ」ということなのです。

 しかし、血圧(mmHg)を「気圧」に換算しても「気圧では、まだまだ体感できないよ」という人も多いかもしれません。 そこで、次は「水の高さ」に換算してみることにします。

 大気圧は「約10mの高さの水の圧力」と同じです。 すると、「最高血圧が0.16気圧未満、最低血圧が0.1気圧未満が正常だ」を水の高さに換算すると、「最高血圧が1.6mの高さの水圧未満、最低血圧が1mの高さの水圧未満が正常だ」となります。 (動脈での)平均血圧が100mHgなら「血圧が1mの高さの水圧と同じ」という具合です。

 こうして血圧(mmHg)を水圧(水の高さで表す圧力)に換算してみると、「動脈を切ってしまうと確かにドクドク血が流れ出しそう」などと実感できるのではないでしょうか。何しろ、たとえば水道の蛇口から出る水の圧力は2気圧程度が目安とされていますから、水道の水と同じくらいの力で(動脈から)流れ出す血を止める(止血する)ことはかなり大変だ…と感じられるはずです。

 あるいは、静脈の圧力は20mmHg程度ですが、これはつまり0.03気圧ほどです。もしも静脈に対し液体を入れようとすると、つまり(いわゆる)点滴をする時には、0.03気圧(20mmHg)より高い圧力で血管の外側から液体を入れてやらなければなりません。 この静脈の圧力を「水の高さ」に換算すると 20mmHg = 20mmHg / 760 mmHg ×10m = 26cmの高さが必要になります。 つまり、静脈に(水とおおよそ同じような重さの液体を)点滴する時には「26cm高い場所から点滴をすれば大丈夫」といったことも体感的にわかるわけです。

 今回は血圧(mmHg)を大気圧や水圧に換算してみました。 身近なはずなのに「なかなか体感できない単位」を、他のものに換算してみると、ちょっと面白く・体感・納得できるかもしれません。

 「大変な・ツラい場所」のシンボルとして扱われる場所のひとつが「宇宙」です。たとえば、地上を遙かに離れた宇宙空間には空気も(ほとんど)なく、人間が生きていける環境ではありません。そして、もうひとつの「大変な・ツラい場所」のシンボルが「大阪湾」です。大阪湾もやはり人間には辛い環境なので、(重しを付けられ)大阪湾に沈められてしまったりすると、私たちは生きていけないに違いありません。

 そんな、大変な場所「宇宙」と「大阪湾」に炭酸ペットボトルとドラム缶を派遣してみたら、一体どんなことになるでしょうか?たとえば、使い終わった(中身が空になった)炭酸ペットボトルを宇宙(真空)中に放り出したらペットボトルはどうなるのでしょう? また、大阪湾に(巨大な重しでも付けブクブクと)ドラム缶を沈めてみたら、ドラム缶は一体どうなるのでしょうか。

 炭酸ペットボトルを宇宙(真空)中に放り出すと、ペットボトルには容器内部の圧力と外部の圧力の差による力が働きます。 ペットボトル内部にある空気は1気圧で、外は真空で気圧はゼロということは、気圧差にして1気圧分に相当する力が内側から外側に向かって働くことになります。 しかし、炭酸ペットボトルは(炭酸飲料を中に入れている状態で破裂したりすることがないように)数気圧以上の耐圧性能を持っています。 ペットボトル外側より内側の方が圧力が高い限りは、ボトル内外で数気圧の圧力差があっても壊れることはありません(だから、ペットボトルロケットだって作ることができるのです)。 ということは、炭酸ペットボトルを宇宙(空間)に放り出したとしても、たかだか1気圧程度の圧力差では、ペットボトルは壊れたりすることはない、ということになります。

 さて、大阪湾にドラム缶を沈めたら、一体どういうことが起きるでしょうか? 大阪湾の水深データベースを見ると、大阪湾は陸地から少し離れると、すぐに水深10数メートル程度になります。 海中の水圧は、水深10mでほぼ1気圧に相当します。 つまり、大阪湾に重しを付けた空ドラム缶を沈めると、そのドラム缶に対して外から内側に向かって1気圧以上の水圧がかかることになります。

 ところが、ドラム缶は外から押される力には意外なほど弱いものです。 金属で頑丈に作られたように見えるドラム缶も、もしもドラム缶の中から空気を吸ったりすることでドラム缶の内側の方が外側より1気圧だけ低いような状態にすると、ドラム缶はその圧力に耐えきれず潰れてしまいます。 たとえば、下の動画のように、熱い水蒸気で満ちたドラム缶に封をした後にドラム缶を水で冷やしたりすると、ドラム缶内部の気圧が下がり、ドラム缶の外側にある1気圧の大気圧によってぺしゃんこになってしまいます。

 というわけで、「宇宙(真空)に放り出した炭酸ペットボトル」と「大阪湾に沈めたドラム缶」…壊れたのは「大阪湾に沈めたドラム缶」でした。この答は当たり前だったでしょうか?それとも少し意外な答えだったでしょうか?