交差点にあるLED信号機をじっくり眺めてみると、ほとんどすべてのLED信号機で、LEDの配置が「規則正しい格子には沿っていない」ということに気づきます。海外ではどうかわかりませんが、少なくとも日本で見かけるLED信号機は、縦と横に一定間隔で規則正しく並べられているのではなく、中央から放射状に(けれど少し不規則に)並んでいることがわかります。そこで、今日は、LED信号機のLED配置のヒミツについて考えてみることにします。
緑・黄・赤といった「丸い信号灯」をLEDを並べて作ろうとするとき、ひとたび「綺麗に丸く見えること」にこだわってしまうと、「縦と横に一定間隔で規則正しく並べるわけにはいかない」ということに気づきます。
普通、信号灯は200個くらいのLEDを並べて「一個の丸信号灯」を形作っています。200個くらいのLEDを縦と横に一定間隔で規則正しく並べようとすると、およそ十数個×十数個という配置でLEDを並べることになります。つまり、それは小アイコンでドット絵師が丸いアイコンを描くのと同じような話です。しかし、右の画像は(たとえば)14×14個のLEDを並べて緑(青)信号を描いてみたものですが、なかなか「丸い信号灯」には見えないことがわかると思います。あるいは、海外の信号灯の例を右下に貼り付けてみましたが、この(LEDが三角メッシュ上に等間隔に配置された)信号灯は何だかギザギザに見え・丸くないように見えてしまいます。
そうした結果、(信号灯を綺麗に丸くすることにこだわってしまうと)たとえばLEDを幾重にも並ぶ同心円上に並べて信号灯を作るといった作り方を用いることになります。しかし、「LEDを幾重にも並ぶ同心円上に並べて信号灯を作る」ということも、実際にやろうとすると結構難しい問題であることがわかります。なぜかというと、「(信号灯内部に変な模様・方向性を持たせないようにしようとすると)縦・横ともにLEDを等間隔に並べなければなりませんが、「同心円上にLEDが等間隔に配置されるような条件」といったものは、ちょっと考えてみると「不可能であり得ない条件だ」ということに気づくからです。
たとえば、信号灯の中心に1個LEDを置き、そのLEDを中心として半径rの円を考えてみます。灯内部に変な模様・方向性を持たせないように、縦・横ともにLEDを等間隔に並べるためには、少しの単純化を行うと、(最初のLEDを中心とした)半径rの円上に、距離rおきにn個のLEDを配置すればよい、ということになります。しかし、半径rとなる円の一周長は2πrですから、(距離rおきにn個のLEDを配置するために)その長さ=2πrをrで割ってもその答えは整数にはなりません。それはつまり、同心円上にLEDが等間隔に配置するということは不可能だ、ということです。
具体的には、半径1の円は、長さが2π×1=6.28….なので、その円上に(距離1で等間隔にLEDを配置しようとしても)上手く配置することができず、もしも距離1で等間隔に6個のLEDを置くと0.28ほどの長さが余ってしまい、その長さを吸収するためにはLEDの間隔を約1.04倍せざるをえない…という具合です。
その結果、もしもLEDを配置する同心円間の間隔と、円上に並ぶLEDの間隔は同じではなくなり、縦と横に異方性を持つことになります。
もしも、「円上に並ぶLEDの間隔」の方が「同心円間の間隔」よりも小さくなってしまうと「バームクーヘンのように同心円が並んだ信号灯」に見えてしまいますし、「同心円間の間隔」の方が「円上に並ぶLEDの間隔」より小さくなってしまうと、中心から放射線が強く伸びるような模様に見えてしまうのです。
だから、LEDで作った信号灯は「外形は丸く見えるけれど、その丸の内部には模様・方向性が見えてしまう」ということになります(参考:LED信号機図鑑)。ある信号はバームクーヘンのように見え、またあるものは放射線のように見え…それはπという不思議な存在のためと考えてみるのも、少し面白いとは思いませんか?
今年8月8日、「中国の実業家が2年間かけて作った”ノアの方舟”を使い、その衝撃低減能力などの実証公開実験が行われ見事成功した!」というニュースが流れました。
中国義浙江省烏市の承認・楊宗福さんが2年間をかけて「ノアの方舟」を製作した。発生するだろう地球の災難に対応するためだ。8月8日、楊さんが自作した「ノアの方舟」に入り、ほとんど垂直の50メートルの山の斜面から池に落ちて、人々に自分の発明成果を披露した。
この直径4メートルのオレンジ色の大きな丸いボールは、重さは6トン、水面で33トンを積載可能。
最も外側の層には、振幅減衰保護層を設計した。4層の3.5ミリメートルの鋼板で…300個の高強度の衝突吸収スプリングおよび75個のエアバックを設置。これらの装置は350トン程度の衝突を解消可能だ。トラックを時速100kmでノアの方舟にぶつけても、中にいた人は全然振動を感じなかった。
このノアの方舟、限りなく夢に満ちていて・本当に心から楽しめるのですが(日本が誇るリアクション芸人である出川哲郎さんをぜひとも搭乗させて欲しいものです)、科学してみると「色々解せないところ」もあります。そこで、今回は、中国市民が作り上げた「ノアの方舟」を科学してみることにしました。
まず、重量6トンだという球形「ノアの方舟」が時速100kmで走り来るトラックとぶつかったならどうなるでしょうか?…トラックの重量は最低でも2トンくらいはありますから、もしもトラックとノアの方舟が弾性衝突したとして計算すると、「ノアの方舟」は衝突直後には時速50kmではじき飛ばされてしまいます。ちなみに、重量2トンのトラックは方舟とは逆の方向に同じく時速50kmで跳ね返るような大事故です。
この衝突が、「(ノアの方舟の)中にいた人は全然振動を感じなかった」という状態で済むとは…とても思えません。もしも、「中にいた人は全然振動を感じなかった」としたら、その人は衝突直後に、すでに振動といったものを感じない状態になってしまっていたのかもしれません。それはつまり、(…以下省略)
そしてまた、「水面で33トンを積載可能」とありますが、直径4メートルの球が得ることができる水中での浮力は最大でもキッカリ・ポッキリ33トンになります。なぜなら、直径4メートルの球の体積に相当する水の重さが33トンであるからです。ということは、ノアの方舟自体の重量が6トンであることを考えると、もしも33トンの人や物資を積載したりしたらば、ノアの方舟の重量はトータル6+33=39トンになってしまいます。しかし、浮力は33トン分しか得られないということは、ノアの方舟は「水に浮くことができない」ということになります。つまり、「方舟(はこぶね)」という名前に反して、このノアの方舟は、水底にただひたすらに沈む金属球体と化してしまうのです。
中国市民が作り上げた「ノアの方舟」を科学してみると、「ノアの方舟」が「水に浮かばない船」だったり、方舟がイキナリ時速50kmではじき飛ぶはずの状況下でも「中の人は何も感じない」といった「アレ?ん?」といった微妙な違和感も満ちています。…しかし、その違和感以上に、何より面白く・楽しさが満ちあふれているニュースであることも確かです。
京都にある古くからの家の作り、京町家には「居住スペース」の両側に庭があり、その片側の庭にだけ打ち水をすると、暑いままの庭に上昇気流が発生し、水を打った冷やされた庭から涼しい風が座敷を貫通し流れていく、という話があります。
古くから続く京都の町家は、まさにウナギの寝床のようで、入り口から最奥部の坪庭まで部屋と通路が真っ直ぐ続きます。居住空間を囲む両側に、交互に水を撒くことで(水を撒いた側の)地面とその上にある空気を冷やすだけでなく、温度差を作り・空気の密度差を作り、結果として、家の中を心地良く吹く風の流れを作る…というのです。
京町家模型で確かめる打ち水の科学
ためしに京町屋の中にある「庭」に水を撒いたとき、家の中を吹き抜ける風の動きを試算してみると、およそ秒速0.5メートルくらいの「かすかな風」が吹きそう、というようになります。
坪庭は高い壁に覆われています。その壁の高さは4mとしましょう。そして、水を撒くことで、(高さ4mの)坪庭内の気温が2度(外気より)下がったものとします。少しひんやりした坪庭は、坪庭最下部横から(居住空間を介して)暑い外へと空気が通り抜けることができるとします。すると、坪庭内と外部との圧力差で生じる風速はおよそ0.5m/s強、となります。
「打ち水で京町屋を通り抜ける風の速さ」を計算しよう!
しかし、水を撒く場所を、「(壁に囲まれた)家にある中庭」でなく「家の前の路地」に巻いたような場合、冷えた重い空気は家の中に吹き込むことなく、ただ通りに沿って他の場所に流れてしまいます。
そこで、もう一度「京町家模型で確かめる打ち水の科学」で引用した文章を読み直してみると、「居室空間の両側に庭があることが、打ち水には大切な要件だ」と書いてあります。なるほど、水を撒くのは、家の前の路地ではなく、居住空間を挟む「(高い壁に囲まれた)庭」だった、というわけで、この「打ち水のキマリ」とても納得できる話です。
京町家では居室空間の両側に庭がある。そのことが打ち水には大切な要件だと、ご夫妻(西陣帯地「渡文」当主渡邉夫妻のこと)にお教え頂いた。
京町家模型で確かめる打ち水の科学
ところで、2つの庭の温度差が生む気圧差によって風を生じさせようとしたならば、「交互に水を撒く」のではなく、いつも片側の庭を「(外気と同じ)灼熱状態」のままにして、もう片側の庭だけを打ち水で冷やしていた方が効率が良いような気もします。ふたつの庭の間を吹き抜ける風の速さは、(その瞬間に気化熱で冷却される熱量ではなく)庭の温度差に依存しますから、交互に冷やしたりせず「熱い」「冷たい」の機能を分離した方が(生じさせる風速に関しては)効率が良くなりそうです。
…さてさて、暑い夏が「夏真っ盛り」でスタートしました。夏休みの自由研究に「打ち水の科学」を選んで実験・解析をして、あなたの部屋や、あなたの家の前を、あるいは、あなたが暮らす街をちょっと涼しくしてみるのはいかがでしょうか?